

増えている子どもの慢性便秘症
近年、子どもの便秘が問題視されています。NPO法人「日本トイレ研究所」が2021年から実施している調査によると、小学生の2割に便秘の可能性があるという結果が4年連続で出ています。子どもの便秘には、食事や生活習慣の乱れ、ストレスといった要因が考えられます。しかし、さまざまな解消法や治療にトライしても、なかなか排便習慣が獲得できず、小児外科にご相談いただく慢性便秘症が年々増えているのです。
当科では、患者さんがこれまでにトライした解消法や治療を伺いながら、改めて精密検査を行い、治療方針を決定しています。中には、患者さん本人は「お腹が張って辛い」とおっしゃるのに、レントゲン検査をしても腸にはガスが溜まっていない場合がありますが、気滞(気の巡りが悪く、停滞している状態)を改善する漢方薬を処方すると、便秘感が解消することがあります。また本人だけでなく、お子さんの便秘を心配するご家族のケアも非常に重要です。このように当科では一人ひとりに寄り添い、根気強く診療を行っています。
ヒルシュスプルング病など器質的疾患の場合も
当科にご紹介いただく便秘の患者さんの中には、稀ながらヒルシュスプルング病などの器質的疾患を合併している方もいます。ヒルシュスプルング病とは、肛門側腸管の腸管壁内神経細胞の先天的欠如に起因する機能的腸閉塞症です。兵庫医科大学の第一外科初代教授である岡本英三先生が、この病気の発生学的根拠を論文で示したという経緯があり、当院には診療の歴史があります。
ヒルシュスプルング病は、胎便排泄遅延や腹部膨満、嘔吐などの症状で新生児期にわかることが多いですが、軽度の場合は疾患が見逃されてしまい、便秘や排便障害として治療されて、乳児期以降や遅ければ小学生になってから初めて見つかるケースもあります。
個々の患者に寄り添い、術後のケアや排便管理も
ヒルシュスプルング病の治療には手術が必要です。神経節細胞のない腸を切り取り、神経節細胞のある口側の正常な腸を引き下ろして肛門とつなげます。手術によって約90%は正常と遜色ない排便機能が期待できます。ただし手術後には半年から1年ほどの排便練習が必要です。患者さんがお住まいの地域に専門外来や疾患に理解のある先生がいらっしゃる場合はお任せしますが、そうでない場合は当科で術後のケアや排便管理なども行います。個々の患者さんによって社会的な状況も異なるため、患者さん本人やご家族のお話をじっくりと聞きながら治療を進めていくことを心がけています。また、小児科をはじめとした関連各科とも連携し、治療と長期フォローアップを行っています。


今後も地域と連携し、幅広い疾患に対応
当院の小児外科は、鼠経ヘルニアや虫垂炎といった日常的な外科疾患から、重症の先天性疾患を持つ新生児や小児がんの患者さんなど、高度の専門的治療が必要な疾患まで、幅広く扱っています。今回は慢性便秘症を取り上げてご紹介しましたが、便秘だけでなくどのような小児外科疾患でも気軽にご相談いただければと思います。もし当院で診療できないようなケースがあっても、地域の医療機関と連携して対応しますので、何でも遠慮なくご相談ください。
また、当院が年4回発行している地域医療連携だよりに「小児外科だより」を同封し、最新のトピックについてご紹介するなど、情報発信も積極的に行っています。今後も発信や交流の機会を増やし、地域の先生方とのより良い協力体制を築いていきたいと思います。
Doctor's Profile
たづけ ゆうこ
田附 裕子
小児外科
准教授/医局長/外来医長
- 専門分野
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- 小児外科一般
- 新生児外科
- 外科栄養
- 腸管不全
- 資格
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- 日本外科学会 外科専門医・指導医
- 日本小児外科学会 小児外科専門医・指導医
- 日本周産期・新生児医学会 認定外科医
- 小児がん認定外科医
- 日本がん治療認定医
- 臨床修練指導医
- 小児慢性特定疾病指定医
- 医学博士(2003年)
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