

術前・術後の化学療法で再発を予防
膵がんの罹患者数は、男女ともに増加傾向にあります。死亡者数も増えており、2023年人口動態統計によると、男性では肺がん、大腸がん、胃がんに次いで4位、女性では大腸がん、肺がんに次いで3位となっています。
膵がんの根治可能な唯一の治療法は外科的切除のみです。しかし、切除を行っても高頻度に再発し予後不良です。そのため、膵がんの完治には、外科的手術に加え薬物治療・放射線治療・免疫療法などを組み合わせた集学的治療が必要です。近年は化学療法の開発が進み、切除可能な膵がんに対しては、手術の前後に再発予防を目的とした術前化学療法と術後補助化学療法を行うことで、生存期間が延長することが明らかになりました。現在はこの方法が膵がんの標準治療とされています。
コンバージョン手術を積極的に推進
膵がんは、転移の有無や、膵臓の周りの血管への拡がりの有無、程度などによって、切除可能膵がん、ボーダーライン膵がん、切除不能膵がんに分類し、それぞれに合った治療方針を決定します。切除不能と診断した場合は化学療法を行いますが、かつての治療では、抗がん剤がいずれ効かなくなり亡くなってしまうケースがほとんどでした。しかし現在では、膵がんに効果的な抗がん剤の種類が増えたことで、1つの種類が効かなくなっても別の抗がん剤に変更することができます。中には、切除不能と判断していた因子が、化学療法によって消失するケースも出てきました。この時点で根治を目指して外科的切除を行う治療を、コンバージョン手術と言います。
当院では、2022年から2024年の3年間で、約20例のコンバージョン手術を行いました。どのような患者さんがコンバージョン手術で利益を受けるのか、まだ明らかになっていない面がありますが、当院では半年や1年が経過しても再発していない患者さんもいらっしゃるため、大いに期待できるのではないかと考えています。コンバージョン手術には、長期生存や治癒の可能性というメリットがある一方で、手術の難度は非常に高く、患者さんの負担やリスクも大きいため、慎重に適用を見極めながら今後も取り組んでいくつもりです。
Mesenteric approachで長期生存を目指す
当院は、膵がんに対する手術においてnon-touch isolation手術であるMesenteric approachに積極的に取り組んでいます。Mesenteric approachとは、切除段階において上腸間膜動脈(SMA)からアプローチするArtery-first approachの1手法です。これまで広く行われてきた方法では、手術中にがん細胞を揉みだしてしまう可能性がありましたが、Mesenteric approachではがんに触れずに摘出することが可能となり、それによって術後の再発を予防できる可能性があります。また、膵臓に流入する血管を手術中の早い段階で切離することで、術中出血が減少する可能性があります。当院ではこの方法を標準術式として、膵がん患者さんの長期生存を目指しています。


全科が連携し、より良い治療を提供
当院では、肝胆膵外科・肝胆膵内科・放射線科の三科によるキャンサーボードを週1回行い、何度も意見交換を重ねた上で治療方針を決定しています。また、膵がんの患者さんの中には併存疾患を持つ方も多いため、糖尿病の場合は糖尿病内科、心臓や肺に疾患をお持ちの場合は循環器内科や呼吸器内科など、各科の先生方と密に連携しながら治療にあたっています。手術前後の化学治療も含めると、膵がんの治療は最短でも10ヶ月はかかるため、それぞれの時期に合わせたリハビリを行うためにはリハビリテーション科との連携も非常に重要です。このように全科の協力体制のもとで、患者さんにとってベストな治療を提供しているのが当院の強みではないかと思います。
当院は兵庫県や大阪府をはじめ、他府県からも多くの膵がん患者さんを受け入れています。「膵がんをなんとか治したい」という強い思いのもとで、これからも病院をあげて取り組んでいきたいと思います。
Doctor's Profile
ひろの せいこ
廣野 誠子
肝・胆・膵外科
主任教授/診療部長
- 専門分野
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- 消化器外科(肝胆膵)
- 資格
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- 日本外科学会 外科専門医・指導医
- 日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医・消化器がん外科治療認定医
- 日本消化器病学会 消化器病専門医
- 日本膵臓学会 認定指導医
- 日本肝胆膵外科学会 肝胆膵外科高度技能専門医
- 日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
- 日本メディカルAI学会 公認資格
- 医学博士(2009年)
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