

がん治療が進歩し、QOL向上や妊孕性温存が重要に
婦人科領域における薬物療法(化学療法や免疫療法)の進歩はめざましく、進行がんや再発がんに対しても長期生存が期待できるようになってきました。例えば、子宮がんにおいては免疫チェックポイント阻害薬、卵巣がんにおいてはPARP阻害薬が登場したことで、生存期間は非常に延びています。
また、診断・手術・放射線治療の進歩によって、早期の婦人科がんの予後も大幅に改善し、「QOLを保ったがん治療」「早期に社会復帰できるがん治療」「妊孕性温存(妊娠・出産する機能を保つこと)」が求められる時代になっています。
できるだけ体の負担が少ない手術を
QOL向上や早期の社会復帰を目指すためには、患者さんの体の負担が少ない低侵襲手術が重要です。当院では、保険承認されているすべての手術の提供が可能であり、その中でも腹腔鏡やロボットを用いた低侵襲手術をできる限り選択しています。他科と比べると、婦人科領域では低侵襲手術の保険診療化があまり進んでいないという現状がありますが、当院では保険承認されていない高難度新規医療技術についても、自由診療として実施しています。このように婦人科領域のあらゆる手術を低侵襲手術として提供できるのは、全国でも限られた施設のみです。
ロボット手術やvNOTESを推進
当院で実施している最新の低侵襲手術の一つが、子宮頸がんの照射野内再発に対する救済手術。放射線が照射された領域の再発子宮頸がんは、手術の難易度が高いため、ほとんどの施設では根治を狙わない化学療法が選択されており、積極的に受け入れて治療を行う施設は全国でも数件しかありません。当院では、根治を狙った救済手術(広汎子宮全摘術や骨盤内臓全摘術)を、開腹(保険診療)またはロボット(自由診療)で実施しています。2024年11月には、国産の手術支援ロボット「ヒノトリ」による広汎子宮全摘術を、世界で初めて成功させました。
また、子宮体がん・子宮頸がん・再発婦人科がんに対する傍大動脈リンパ節郭清においても、多くの施設では開腹手術が選択され、恥骨からみぞおちまでの大きな皮膚切開を要しますが、当院では手術支援ロボット「ダビンチXi」を使用した低侵襲手術(自由診療)を実施しています。
腹腔鏡手術やロボット手術よりもさらに低侵襲な手術として、vNOTES(腟式自然開口部経管腔的内視鏡手術)も行っています。vNOTESは、カメラや鉗子を膣から挿入し、子宮や卵巣の腫瘍を膣から取り出す手術です。良性子宮疾患、良性卵巣腫瘍、初期の子宮がんなど適用疾患は限られますが、お腹を切らないため術後の痛みが軽く、早期の社会復帰が期待できます。
妊孕性温存手術や生殖医療も充実
当院では、妊孕性温存を希望する早期子宮頸がんの患者さんに対して、子宮頸部のみを摘出し、子宮体部と腟管をつなぐ手術を行っています。この手術を開腹で行うと、不妊の原因の一つとなる卵管周囲の癒着が起きるリスクがありますが、私が独自に開発した後腹膜アプローチによる術式では、腹腔内に一切入らずに子宮頸部とリンパ節を摘出するため、癒着を防ぐことができます。この術式を行えるのは全国で当院のみです。
また、生殖医療の側面から妊孕性温存に積極的に取り組んでいるのも当院の特徴です。化学療法や放射線治療によって、妊孕性が低下もしくは消失してしまうリスクに備えて、治療開始前に卵子や受精卵、卵巣組織の凍結保存を行っています。卵巣の摘出・凍結を自施設で実施できるのは、県内では当院のみです。
がん診療と生殖医療を二枚看板に
1983年から体外受精・胚移植に着手するなど、当院の生殖医療は40年以上の歴史を誇るため、地域の先生方の中には「生殖医療の兵庫医大」というイメージを持っている方が多いかもしれません。しかし、今回ご紹介したように、腹腔鏡やロボットによる低侵襲手術や妊孕性温存手術など、最先端の婦人科がん治療を提供していますので、「生殖医療の兵庫医大」だけでなく「がん診療の兵庫医大」としても広く認知していただけるよう、これからも情報発信に努めていきたいと思っています。初発・再発を問わず、すべての婦人科がんが我々の治療対象ですので、難治性の病態に関してもぜひご相談ください。
Doctor's Profile
まぶち せいじ
馬淵 誠士
産科婦人科
主任教授/診療部長
- 専門分野
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- 婦人科腫瘍
- 内視鏡手術
- 分子標的治療
- 腫瘍免疫
- 放射線治療
- 資格
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- 日本産科婦人科学会専門医・指導医
- 日本婦人科腫瘍学会専門医
- ダヴィンチサージカルシステム認定資格
- 日本内視鏡外科学会ロボット支援手術認定プロクター
- 婦人科内視鏡手術技術認定医
- 外科内視鏡手術技術認定医
- 医学博士
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