

好中球性皮膚症とも呼ばれる、膿疱症と膿皮症
皮膚は外界に対するバリアであり、上皮と免疫系、さらに常在菌が協力して病原性微生物の侵入を防いでいますが、しばしばバランスを崩して炎症を起こします。膿疱症と膿皮症は、熱感や痛みといった急性炎症を伴い、表皮あるいは真皮への好中球浸潤を特徴とすることから、好中球性皮膚症とも呼ばれます。膿疱症の代表的なものには膿疱性乾癬や掌蹠膿疱症、膿皮症の代表的なものには慢性膿皮症(化膿性汗腺炎)や壊疽性膿皮症があります。汎発型の膿疱性乾癬は、厚生労働省の指定難病に定められている疾患です。
生物学的製剤など、治療の選択肢が広がっている
好中球は本来、皮膚に侵入した細菌を攻撃し、防御する役割を担っていますが、好中球性皮膚症の場合は、病変部に細菌が侵入していないにもかかわらず、好中球が集まって膿を形成してしまいます。つまり、細菌ではなく好中球が暴走している状態です。以前は好中球性皮膚症に有効な薬があまりなく、抗生物質を服用して一時的に寛解しても、また何度も同じ症状を繰り返してしまうケースが多く見られました。
しかし近年では、自然免疫とそれを制御する獲得免疫のメカニズムが解明されつつあり、炎症の原因となる物質を中和する生物学的製剤の開発が進んでいます。これまではアトピーやリウマチといった疾患で導入されていたような注射薬が、好中球性皮膚症の分野でも次々と保険適用され、現在もいくつかの新薬の治験が進行中です。好中球性皮膚症に長年悩まされてきた患者さんたちの治療の選択肢が広がっているのです。
導入時の管理や、地域連携による継続的な治療が重要
生物学的製剤は高額であり、特に初期は副作用のリスクもあることから、導入前に患者さんにじっくりと時間をかけて説明をする必要があります。また、炎症や免疫を抑える作用があるため、感染症にかかりやすい、あるいは重症化しやすいというリスクもあり、もし何かあったときに早急に受け入れられる体制が必須となります。こういった理由から、地域の病院やクリニックではなく、大学病院など規模の大きい施設で導入するケースが一般的です。 兵庫医大では、さまざまなリスク管理や導入前の検査に対し、各診療科が連携して対応できる体制が整っています。当院で生物学的製剤を導入し、症状がある程度落ち着いたら地域の先生にお戻しして、同じ薬を継続する、あるいは軽い薬に切り替えて経過観察する、といった形で、地域で連携しながら診療していきたいと考えています。実際、アトピー性皮膚炎や乾癬の分野では、すでにこういった協力体制のもとで、地域の先生方と共に生物学的製剤による治療を進めています。


適切な情報提供を行い、患者にとってベストな治療を
患者さん一人ひとりに対してベストな治療を提供するためには、新しい治療の選択肢が広がっていることを、しっかりと情報提供していくのが重要です。当科では、サタデーモーニングセミナーなどを通じて、常に最新の情報を地域の先生方にお伝えしていきますので、先生方から必要とする患者さんへ情報を届けていただければと思います。そして、もし治療に難渋しているケースがあれば、ぜひ当科へとご紹介ください。大学は医療機関であり、研究機関でもありますので、目の前の患者さんに丁寧に向き合って診療を行うのはもちろん、まだ見ぬ将来の患者さんのためにも有効な治療につなげられるよう、医療の発展を目指して取り組んでいます。例えば私が専門としている自己炎症性疾患の領域では、遺伝性の要因が関係しているケースもあるため、専門家による詳細な診断と治療が重要です。何か新しい治療のアプローチが見つかる可能性もありますので、ぜひお気軽にご相談ください。
Doctor's Profile
かなざわ のぶお
金澤 伸雄
皮膚科
診療部長
- 専門分野
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- 自己炎症性疾患
- サルコイドーシス
- 薬疹
- 遺伝性皮膚疾患
- 資格
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- 日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
- 日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医・指導医
- 日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医
- 医学博士(2000年)
過去に開催された「兵医サタデーモーニングセミナー」のアーカイブ動画は、兵庫医科大学病院の登録医制度「武庫川クラブ」にご登録済みの先生方、 および一部の関連医療機関の先生方のみ視聴可能なコンテンツです。上記のインタビュー記事を読んで「アーカイブ動画を視聴したい」と思った方は、武庫川クラブへのご登録をお願いします。
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