歯周病と糖尿病の深い関係
近年、う蝕や歯周病に代表される口腔の疾患およびその原因となる微生物と全身との関連が話題になっています。例えば、歯周病と糖尿病は相互に悪影響を及ぼすリスク因子です。「歯周病が糖尿病の食事療法の妨げになる」ことや「糖尿病患者は易感染性で、感染症である歯周病も悪化しやすい」ことは、一般的にも広く知られています。さらに、「歯周病の炎症で産生されるTNF-αがインスリン抵抗性を引き起こす」「重症の歯周病を治療するとHbA1cが0.5%程度低下する」といった事実も明らかになってきました。つまり、歯を治療せずに内科的治療を行うのは、効率が良くない可能性があるのです。逆に言えば、歯の治療をすることで、糖尿病の患者さんが飲む薬の量を減らせる可能性もあります。
サイレントディジーズが全身に影響する
糖尿病の他にも、「歯周病菌の産生毒素が、関節リウマチの発症や増悪化に関連する」「⻭周病がアルツハイマー型認知症のリスクを上げる可能性が高い」「骨粗鬆症と歯周病は強い相関関係があり、骨粗鬆症患者は高率で重度歯周病になっている」など、さまざまな疾患と歯周病との関係が近年の研究によって明らかになりつつあります。 しかし歯周病は、「サイレントディジーズ(静かなる病気)」と表現されるように、ひどくなるまで自覚されることの少ない病気です。そのため、患者本人も自覚していないケースや、自覚症状が出始めているのに放置してしまっているケースも少なくありません。そのまま放置しておくと、健康な歯にも悪影響を及ぼし、口腔内全体が悪くなっていきます。さらに全身疾患にもつながっていくため、まさに歯周病は「万病のもと」だと言えるでしょう。
骨粗鬆症治療の前には歯科スクリーニングを
先に挙げた骨粗鬆症は、薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)との関連もよく知られています。骨粗鬆症の治療に用いられる骨吸収抑制薬(ARA)は、骨の代謝を抑制するため、抜歯窩やインプラントの治癒過程を遅らせ、稀にではありますがMRONJを発症するリスクがあるのです。
しかしARA開始前ならばゼロリスクであるため、2023年に改訂されたポジションペーパーでは、「原則として骨粗鬆症治療を開始する患者には全例が歯科スクリーニングの対象」とされています。骨粗鬆症治療を継続して脆弱性骨折を予防し、同時にMRONJを予防するためには、医師・歯科医師・薬剤師のコミュニケーションが極めて重要です。
骨がもろくなって大腿骨近位部骨折や脊椎骨折が起きると、その後の寝たきりや死亡リスクが脳卒中と同等に高いことから、「骨卒中」という造語もあります。それほど骨粗鬆症は、高齢者にとって治療が重要な病気なのです。だからこそ、歯科スクリーニングを実施した上で適切な治療を速やかに行うことが肝要だと言えるでしょう。
地域の先生方と連携し、より良い医療を提供
口腔は食べ物の入口であり、呼吸の入口でもあるため、全身のさまざまな疾患との関連は枚挙にいとまがありません。また、口腔内の細菌数を減らすことは、術後肺炎の予防にもつながるため、手術や治療の前にはぜひ患者さんに歯科受診を勧めていただければと思います。もちろんすでに治療中の患者さんでも、先に述べたような糖尿病の薬の軽減など、歯科治療が全身疾患の治療に寄与できる可能性があります。当院は、地域の医師・歯科医師の先生方との連携体制をさらに強化し、地域医療により一層貢献していきたいと考えています。
Doctor's Profile
きしもと ひろみつ
岸本 裕充
歯科口腔外科
診療部長
- 専門分野
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- 口腔外科:インプラント
- 顎変形症
- 周術期口腔管理
- 資格
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- 日本口腔外科学会 専門医・指導医
- 院内感染予防対策認定医(ICD)
- 日本口腔感染症学会 認定医
- 日本がん治療認定医機構 暫定教育医(歯科口腔外科)
- 日本口腔インプラント学会 暫定指導医
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