SLE治療における、ステロイド減量の重要性
膠原病は、全身の諸臓器に症状が出現し、多様な臨床経過をとる全身性自己免疫疾患で、全身性エリテマトーデス(SLE)はその代表的な疾患の一つです。 SLE患者では疾患そのものに加え、薬剤、特にステロイド(グルココルチコイド)による臓器障害が生命予後に影響します。ステロイド治療の主な副作用として、 感染症リスクの増加や、骨粗鬆症、血圧上昇、血糖値上昇、脂質異常やそれらに伴う動脈硬化などがあり、長期使用によって脳血管障害や心筋梗塞などの重篤な合併症につながる可能性があるのです。 そのためSLEの治療においてステロイドの減量が重要な課題です。
新薬の登場で、ステロイドに頼らない治療が可能に
近年は新薬の登場により、ステロイドだけに頼らないSLEの治療法の確立が進んでいます。その代表例が、2015年に日本で承認されたヒドロキシクロロキンという治療薬です。実はこの薬自体は新しいものではなく、海外の多くの国では半世紀以上前からSLEに使用されていました。なぜ日本では使用されていなかったかと言うと、昭和30〜40年代にクロロキンという薬が使われていたのですが、長期投与により「クロロキン網膜症」と呼ばれる重篤な副作用が頻繁に発生し、1974年(昭和49年)に販売中止になったためです。これは三大薬害の一つとして有名です。その後、世界的には網膜毒性の低いヒドロキシクロロキンが主に使用されるようになったのですが、日本ではなかなか承認されなかったのです。ヒドロキシクロロキンはSLEに対して、ステロイドのような即効性はないものの、関節痛や皮膚症状などの軽度の症状に効果があり、加えて臓器障害や再燃リスクを低減するなどの有益性が確認されているため、現在では、アレルギーなどの理由がない限りは患者全員に使用が推奨されています。
生物学的製剤や免疫抑制薬を併用し、寛解を目指す
近年はSLEの病態メカニズムが明らかになりつつあるため、病態形成に重要な役割を果たす標的にピンポイントで効かせる生物学的製剤も登場しています。Bリンパ球刺激因子を標的とするベリムマブは2017年に、Ⅰ型インターフェロンの働きを阻害するアニフロルマブは2021年に、日本で承認されました。また最近では、ミコフェノール酸モフェチルなどの新しい免疫抑制薬もSLE治療で使えるようになりました。以前から使われている免疫抑制薬であるシクロホスファミドは、卵巣機能障害を引き起こすリスクがあり、若い女性には使いづらかったのですが、ミコフェノール酸モフェチルにはそういった副作用がないという利点があります。
ここで挙げたような生物学的製剤や免疫抑制薬を併用することで、より少ない用量のステロイドで、寛解を目指す治療が可能となってきました。臓器障害がある場合は、十分量のステロイドを使用しますが、病状が落ち着けば、慎重にではありますがステロイドを減量していくことが非常に重要なのです。
患者一人ひとりに寄り添ったSLE治療を
今回ご紹介したヒドロキシクロロキン、ベリムマブ、アニフロルマブといった治療薬は、全国的に見るとまだまだ使用頻度は高くありません。一方、当院では新しい治療薬を積極的に取り入れ、SLEの患者さんがより良い状態を、より少ない用量のステロイドで維持できるよう努めています。兵庫医大のこれら新規治療薬の使用率は全国平均をはるかに上回っており、ステロイドの減量にも成功しています。
新薬が次々と登場し、選択肢が広がったことで、個々の状態に合ったSLE治療が可能となりました。昔はステロイドを使って抑え込むことしかできませんでしたが、今は治し方、抑え方を考えられる時代になっているのです。現在のSLEの治療目標は、「社会的寛解(健常者と何も変わらない社会活動を行える状態)の維持」となってきたのです。しかし、長年ステロイドを使用してきた患者さんは、医師が減量を勧めても、どうしても不安を感じる場合があります。そのため当科では、患者さん一人ひとりの気持ちに寄り添いながら、丁寧にコミュニケーションを取ることを大切にしています。地域の先生方が「もしかしたら」と膠原病を疑うようなケースがあれば、ぜひ一度当科までご相談いただければと思います。
Doctor's Profile
あずま なおと
東 直人
アレルギー・リウマチ内科
准教授/診療部長
- 専門分野
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- リウマチ・膠原病
- アレルギー
- 資格
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- 日本内科学会 総合内科専門医・認定医・指導医
- 日本リウマチ学会 専門医・指導医
- 日本アレルギー学会 専門医・指導医
- 日本臨床免疫学会 免疫療法認定医
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