一般的に、全インシデント報告数は病床数の5倍、そのうち1割が医師からのインシデント報告であることが、医療安全の透明性の目安と言われています。当院では、報告数が年々増えており、昨年は5000件を超えて、この基準値を達成することができました。これは事故が増えているという意味では決してなく、報告しやすい環境づくりが進んできたことを表しています。
一方、報告者は看護師が圧倒的に多く、医師からの報告数はまだ5%程度です。基準である1割に達していないため、医師からの報告を増やすための働きかけを継続して行っています。例えば、院内で月1回行う医療安全の会議では、前月に起こったインシデントを研修医の先生方に割り当て、書類作成やプレゼンテーションを担当してもらうことで、まずはレポートに慣れて、書く習慣を付けてもらおうと働きかけています。

今後、インシデントレポートにおいて特に増やしてきたいのは、レベル0と呼ばれる未然に防げた事象の報告です。レベル0の報告が増えることで、「他の部署ではこうしているのか」「こうすれば未然に防げるのか」という情報共有につながります。もちろん、それで全てが防げるわけではないですが、防げるものは防ぎたいですから。
また、インシデントではなくアクシデントにあたるような重大な事象についても、どんな場合も個人を責めるのではなく、原因をしっかり分析し、要因となったシステムなどを改善していくことが重要です。
私たち医療安全管理部は、大小さまざまな報告を増やしていくことを通じて、当院の医療安全文化をより醸成していきたいと考えています。そのためにも、職種や立場にかかわらず、誰もがお互いに意見を交わせるような心理的安全性を担保することを大切にしています。

当院では、私立医科大学病院同士で医療安全相互ラウンドを行っています。今年は、大阪府高槻市にある大学病院を訪問し、医療安全の取り組みについて情報交換を実施しました。この大学病院では、地域の病院や薬局、さらに高槻市とも連携し、医療安全を共に考える活動をされています。例えば、患者誤認を回避するための対策をプリントしたポケットティッシュを配布するなどの情報発信が行われていました。こういった活動を参考に、今後は当院でも、地域の病院や薬局、施設、行政機関と連携し、医療安全の発信活動を行っていきたいと考えています。
医療安全においては、施設の規模の大小にかかわらず、私たちと地域の先生方で共通する悩みがあるのではないでしょうか。そういった課題に対して、地域で連携しながら一緒に取り組んで解決していけたらと考えています。