

脳梗塞は「治らない病気」から「治せる病気」に
急性期脳梗塞に対する治療は、この20年ほどで劇的に変化しています。私が脳神経外科に入局した2000年には、有効な治療法は確立されておらず、救命目的の外減圧術が行われるくらいでした。その後、2005年10月に経静脈的なtPA療法(急性期再開通療法)が保険認可されました。tPA療法とは、tPAという薬剤を点滴で投与し、血栓を溶解することで脳への血流を回復させる治療法です。発症後、早期にこの治療を開始することで、脳細胞の壊死を防ぎ、後遺症を軽減できる可能性があります。さらに2015年には、経皮的な機械的血栓回収療法の有効性が証明されました。これは、脳梗塞の原因となる血栓を、カテーテルやステントを用いて血管内から物理的に除去するという治療法です。このように治療が進歩してきたことで、急性期脳梗塞は「治らない病気」から「治せる病気」へと変わってきています。
カテーテル治療の適応範囲が拡大
tPA療法が適応となるのは、脳梗塞を発症してから4.5時間以内の患者さんのみです。また、出血傾向がある人や、すでに大きな脳損傷が確認されているケースでは使用できません。一方、経皮的脳血栓回収療法は、当初は発症から6時間以内の患者さんのみが適応とされていましたが、脳梗塞の範囲や側副血行路の状態によっては、24時間以内であれば効果があることが、2018年に証明されました。さらに2022年には、これまで血管内治療の対象ではなかった広範囲の脳梗塞に対しても、経皮的脳血栓回収療法が有効であることが明らかになりました。この研究結果は、兵庫医大が全国の脳卒中センター45施設の協力を得て実施した臨床試験によるもので、世界初の報告として医学雑誌「The New England Journal of Medicine」に掲載され、大きなインパクトをもたらしました。
多くの患者を救うため、臨床・基礎研究が進んでいる
経皮的脳血栓回収療法の適応範囲が拡大しているものの、実際に適応となる症例は、今でも全体の10%程度です。そのため、現在は適応外となっている軽症の脳梗塞や、中血管の閉塞(Medium-vessel occlusion:MeVO)に対する治療のエビデンスを確立するべく、世界各地で研究が行われています。治療対象をもっと拡大し、1人でも多くの患者さんを救えるように、兵庫医大でも引き続き臨床研究を進めています。
また、臨床研究だけでなく基礎研究の分野では、脳・脊髄の病気の後遺症を改善するため、幹細胞を用いた神経再生治療の臨床応用を目指した研究にも取り組んでいます。特に当大学内で見出された虚血誘導性多能性幹細胞:iSCs (ischemia-induced multipotent stem cells)や羊膜間葉系幹細胞などを中心に解析しています。


24時間365日、救急要請を全例受け入れ
当科では、脳梗塞をはじめとする脳血管障害はもちろん、脳腫瘍、神経外傷など脳神経外科疾患全般を扱っています。特に血管内治療においては日本トップクラスの症例数を誇ります。また、いつでも速やかに治療介入できるよう、24時間365日、専門医が常駐しているところも当院の強みです。地域の先生方の中には「大学病院は敷居が高い」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、救急要請は一切断ることなく全例受け入れを行っていますので、安心して患者さまをご紹介いただければと思います。当科の専門医に直接つながるホットライン(080-2529-8239)も開設していますので、脳疾患が疑われるときはぜひお電話でご相談ください。
Doctor's Profile
うちだ かずたか
内田 和孝
脳神経外科
准教授
- 専門分野
-
- 脳血管障害
- 内視鏡
- 資格
-
- 日本脳神経外科学会 専門医
- 日本脳神経血管内治療学会 専門医・指導医
- 日本脳卒中の外科学会 技術認定医・技術指導医
- 日本脳卒中学会 専門医・指導医
- 日本神経内視鏡学会 技術認定医
- 日本医師会 認定産業医
過去に開催された「兵医サタデーモーニングセミナー」のアーカイブ動画は、兵庫医科大学病院の登録医制度「武庫川クラブ」にご登録済みの先生方、 および一部の関連医療機関の先生方のみ視聴可能なコンテンツです。上記のインタビュー記事を読んで「アーカイブ動画を視聴したい」と思った方は、武庫川クラブへのご登録をお願いします。
武庫川クラブ(登録医制度)へのご登録はこちらから