Doctor’s Interview

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Saturday morning seminar

Doctor's
Interview

2023年
5月開催
妊孕性温存の現状と課題
脇本 裕産科婦人科

がん患者のQOL向上に寄与する、
妊孕性温存療法

近年、妊孕性温存療法が世界的に広がっています。妊孕性温存とは、妊娠・出産の機能を温存すること。がんや免疫疾患の患者さんは、化学療法や放射線治療によって、妊孕性が低下、もしくは消失してしまう場合があります。そのため、将来自分の子どもを授かる可能性を残すために、治療前に卵子や精子、受精卵、卵巣組織の凍結保存を行う治療が、妊孕性温存療法です。

2004年、卵巣凍結保存・移植による妊娠出産が世界で初めて報告され、この症例がブレイクスルーとなって妊孕性温存療法が急速に広がっていきました。また、近年はがんの寛解率が8割を超え、治療後のQOLを考慮する意識が高まっていることも、この領域への後押しとなっています。2012年には日本がん・生殖医療研究会(現在は学会)が設立され、2014年には乳がん、2017年にはすべてのがんに対する妊孕性温存に関するガイドラインが発刊されました。

県内で唯一、
卵巣の摘出・凍結を自施設で行う

妊孕性温存療法へのニーズが高まるなか、がん診療施設と生殖医療施設が、円滑かつ緊密に連携できるよう、各都道府県でがん・生殖医療ネットワークが設立されています。2013年に岐阜県で日本初のネットワークが設立され、兵庫県では2016年に当院の主導で設立しました。現在、兵庫県がん・生殖医療ネットワークに登録されている生殖医療施設は当院を含めて2施設で、卵巣の摘出・凍結を自施設で行えるのは当院のみです。当院では、2017年に初めて卵巣凍結を行い、2023年3月までに35件の症例があります。

卵巣凍結は、卵子・受精卵凍結と比べて、短期間で行えるという利点があります。卵子・受精卵凍結は卵巣刺激が必要になるため、10日から2週間ほどかかります。その分、原因疾患の治療のスタートが遅れてしまうのです。卵巣凍結の場合は、2泊3日程度の入院で終えられるため、卵巣摘出手術の翌日から原因疾患の治療をスタートする患者さんもいます。もちろん麻酔や手術の合併症といったリスクはありますが、手術自体は低侵襲で、傷口も2~3cmほどで済みます。

国の助成金制度などによる後押しも

2021年度から、厚生労働省による「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」が開始され、さらに2022年度から、妊孕性温存後の生殖補助医療に対しても公的助成事業が始まりました。この制度によって、下表のように助成金が下りることになりました。妊孕性温存療法は保険適用外で、患者さんの費用負担が大きいことが課題の一つだったため、助成金制度はこの領域を進展させる大きな後押しになると言えるでしょう。また、昨年には、国内で初めて卵巣凍結・移植による妊娠出産の報告があり、ニュースでも取り上げられたため、世間の認知度やニーズは今後ますます高まっていくと考えられます。

妊孕性温存療法 助成上限額
胚(受精卵)凍結 35万円
未受精卵子凍結 20万円
卵巣組織凍結 40万円
精子凍結 2.5万円
精子凍結
(精巣内精子採取)
35万円
対象となる生殖補助医療 助成上限額
凍結した胚(受精卵)を用いた 10万円
凍結した未受精卵子を用いた 25万円
凍結した卵巣組織再移植後 30万円
凍結した精子を用いた 30万円

一人ひとりに寄り添う医療を実現するために

当院の産科婦人科では、患者さんの立場に寄り添った医療を大切にしています。妊孕性温存も、希望する人・希望しない人がもちろんいらっしゃいますし、価値観は人それぞれですから、一人ひとりの気持ちを尊重して、患者さん自身が選択できるように情報提供やサポートをしていきたいと考えています。

地域の先生方は、妊孕性温存療法を行うことを前提に当院にご相談いただくケースが多いかと思いますが、そうではなく「一度詳しく話を聞いてみたい」という場合でも、気軽に申込書を送っていただいて構いません。原因疾患の主治医の先生が、限られた診療時間内で妊孕性温存について患者さんに説明するのは、やはり限界があるかと思います。当院にご紹介いただければ、我々専門医が患者さんに丁寧にご説明させていただきますので、ぜひ気兼ねなくご相談ください。

Doctor's Profile

プロフィール写真

わきもと ゆう
脇本 裕
産科婦人科
講師/病棟医長

資格
  • 日本産科婦人科学会 専門医
  • 日本生殖医学会 生殖医療専門医
  • がん治療認定医
  • 日本産婦人科医会 母体保護指定医
  • 日本産婦人科医会 母体保護指定医
  • 日本周産期・新生児医学会 新生児蘇生法「専門」コースインストラクター
  • 日本がん・生殖医療学会 認定がん・生殖医療ナビゲーター

過去に開催された「兵医サタデーモーニングセミナー」のアーカイブ動画は、兵庫医科大学病院の登録医制度「武庫川クラブ」にご登録済みの先生方、 および一部の関連医療機関の先生方のみ視聴可能なコンテンツです。上記のインタビュー記事を読んで「アーカイブ動画を視聴したい」と思った方は、武庫川クラブへのご登録をお願いします。

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