進歩する心臓弁膜症のカテーテル治療
今から20年ほど前までは、心臓弁膜症に対する根本治療としては開胸手術しかありませんでした。しかし近年は、医学の進歩に伴い、低侵襲の経皮的カテーテル治療が可能となっています。当院は2016年に、大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)の実施施設に認定され、循環器内科・心臓血管外科・麻酔科・リハビリ科等からなるハートチームを結成。さらに、2022年にはMitraClip(マイトラクリップ)実施施設に認定され、僧帽弁逆流症に対する経皮的僧帽弁形成術も行っています。
人間の心臓は、1日に約10万回拍動します。心臓の弁も約10万回の開閉を毎日繰り返すため、高齢になるにつれて経年劣化はどうしても避けられません。昔ならば高齢がゆえに外科手術ができなかった患者さんでも、今はカテーテル治療という新たな選択肢ができました。心臓弁膜症のカテーテル治療は、健康寿命の延伸のためにも非常に重要なのです。
患者背景や希望に沿った、オーダーメイドの治療
心臓弁膜症治療の選択肢が増えた中で、当院では、患者さんの年齢・併存疾患・フレイル・本人の希望など、複数の要素を考慮した上で総合的に判断し、一人ひとりに合わせたオーダーメイドの治療を行うことを心がけています。
例えば、肺にも疾患がある患者さんの場合、人工呼吸を一時的に装着する全身麻酔はリスクが高いため、局所麻酔によるカテーテル治療という新たなオプションができたのは非常に意義のあることです。また、併存疾患が多く、開胸手術はリスクが高すぎるような患者さんでも、カテーテル治療ならば可能なケースも少なくありません。このように多様な患者さんに対応できることから、カテーテル治療は「患者背景にとらわれない手術」と言われています。
TAVIの場合は、適応かどうかの主な判断基準は、年齢と併存疾患になりますが、MitraClipは判断がより複雑です。僧帽弁逆流症のエチオロジー(成因)によって細かく分類されているため、当院では独自のフローチャートを活用しながら判断を行っています。ハートチームのメンバーが協議を重ね、その患者さんにとってベストな方法を選択しますので、安心してお任せいただければと思います。
心雑音があれば、なるべく早期に受診を
「早足で歩くと息切れがする」など、老化で片付けられてしまいがちな症状の中にも、心臓弁膜症が隠れている可能性があります。地域の先生方には「もしかしたら心臓弁膜症かもしれない」という意識を持って聴診器を使っていただき、もし心雑音があれば、重症度の評価目的でぜひ気軽に当院にご紹介ください。
適切な治療介入時期を逃さないという意味でも、患者さんと術者の信頼関係を構築するという意味でも、早期受診には大きなメリットがあります。外科手術にしてもカテーテル治療にしても、心臓の手術である以上はリスクを背負いながらの手術になりますので、患者さんとの信頼関係はとても重要です。できれば中等症の時点でご紹介いただき、地域の先生に診ていただきながら当院でも定期的にフォローし、術者との関係性をしっかりと築いた上で手術を行うのが理想的ではないでしょうか。
各分野のスペシャリストが揃う環境
当院の循環器内科には、カテーテル治療チーム、心不全チーム、不整脈チームといった各分野の専門家が揃っていますし、心臓血管外科には低侵襲心臓手術(MICS)を得意としている外科のスペシャリストもいます。そのため、他院と比べても治療の選択肢が多く、患者さんの状態に応じたベストな治療を選択できる環境だと自負しています。
また、当院は総合病院として各科が連携して診療にあたっているため、循環器に特化した病院では受け入れが難しいような併存疾患があっても対応できます。地域の先生方は、ぜひ安心して患者さんをご紹介いただければと思います。
Doctor's Profile
あかほり ひろくに
赤堀 宏州
循環器内科
講師
- 専門分野
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- 循環器 特に虚血性心疾患
- 心臓弁膜症
- 閉塞性動脈硬化症
- 資格
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- 日本循環器学会 循環器専門医
- 日本内科学会 総合内科専門医・指導医
- 日本心血管インターベンション治療学会 専門医
- 経カテーテル的大動脈弁留置術 実施医・指導医
- 経皮的僧帽弁形成術 実施医
- 医学博士(2011年)
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