治療方針を定めるための鑑別が重要
膵嚢胞性疾患とは、膵臓にできる嚢胞状の腫瘍の総称です。多くは無症状ですが、近年は検診や人間ドックで行われる腹部超音波検査やCT検査の画質が向上したため、偶然見つかるケースが増えています。
膵嚢胞性腫瘍の中でも代表的なものは、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、粘液性嚢胞腫瘍(MCN)、充実性偽乳頭状腫瘍(SPN)、漿液性嚢胞腫瘍(SCN)の4種類で、特に頻度が高いのはIPMNです。これらの鑑別は非常に難しいのですが、それぞれに特異的な画像診断があり、その中で必須となるのが超音波内視鏡検査(EUS)という検査です。EUSは膵臓の内視鏡を専門とする医師でないと診断が難しい検査で、どの施設でも行えるものではありません。なぜそこまでして鑑別が必要かと言うと、この4種類の疾患はそれぞれ治療方針が異なるからです。
早期治療で完治できる「治る膵臓がん」
IPMNは、悪性または有症状の場合は手術が必要です。良性の場合は、半年ごとのEUSを含めた経過観察となります。MCNは、患者のほとんどが女性で、膵臓の体尾部に後発します。がん化しやすいという特徴を持つため、見つかり次第すぐに手術が必要です。SPNは、若い女性に多く、腫瘍内で出血を起こしたり、急に大きくなって腹痛の原因になったりする場合があるため、こちらに関しても見つかり次第すぐに手術が必要です。SCNは、基本的に良性の腫瘍のため、無症候性の場合は経過観察となります。しかし、まれに大きくなって周囲の臓器や血管を圧迫し、腹痛などの症状をきたすことがあり、その場合は手術を行います。
膵嚢胞性腫瘍は、一般的な膵臓がんに比べると悪性度が低く、「治る膵臓がん」とも呼ばれています。早期に治療すれば完治できる可能性が高いため、まずはしっかりと鑑別を行い、適切な治療を行うことが重要です。当院では、内科・外科・放射線科が何度も意見交換を重ねた上で、治療方針を決定しています。
患者のQOL向上にこだわった手術を推進
膵臓がんの手術は、難易度も侵襲度も高い手術です。一方、膵臓がんに比べると、膵嚢胞性腫瘍は悪性度が低いため、当院ではできる限りQOLにこだわった手術を行っています。例えば、腹腔鏡下あるいはロボット支援下手術による低侵襲手術を推進。腸管が空気に触れないため、術後の腸の蠕動運動などの回復が早まります。また、小さな傷で手術できるため、コスメティック面でも非常に優れています。
また、臓器や膵機能を温存できるような術式も推進しています。膵臓の体部や尾部にできた腫瘍に対する膵体尾部切除術は、膵臓の約3分の2と脾臓を一緒に切除するのが一般的ですが、当院ではできる限り脾臓を温存する手術を行っています。あるいは、膵中央切除術という、少しでも膵臓を温存する方法を取ることで、術後の栄養状態が良くなる、糖尿病のリスクが低くなるといった利点があります。
院内外の連携を深め、ベストの治療を
膵嚢胞性腫瘍は頻度が高いため、地域の開業医の先生方が偶然見つけて、経過観察をしているケースも多いかと思います。腫瘍が大きくなって症状をきたす場合など、もし何か気になることがありましたら、ぜひ一度当院にご紹介ください。当院で診断を行い、治療方針を定めて、すぐに手術の必要がなければ地域の先生方のもとで経過観察を続けていただき、定期的に当院にも検査に来ていただくなど、うまく連携を取りながら診療できればと思います。
当院では、各診療科が密に連携し、患者さん一人ひとりに対してベストの治療を行うという強い気持ちで、一丸となって取り組んでいます。お困りのことがあれば、ぜひ気軽にご相談ください。
Doctor's Profile
ひろの せいこ
廣野 誠子
肝胆膵外科
診療部長
- 専門分野
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- 消化器外科(肝胆膵)
- 資格
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- 日本外科学会 外科専門医・指導医
- 日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医・消化器がん外科治療認定医
- 日本消化器病学会 消化器病専門医
- 日本膵臓学会 認定指導医
- 日本肝胆膵外科学会 肝胆膵外科高度技能専門医
- 日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
- 日本メディカルAI学会 公認資格
- 医学博士(2009年)
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