年々患者が増加している慢性腎臓病(CKD)
腎臓病の有病者数は世界で8億5,000万人に増えていると、国際腎臓学会が発表しました。その数は、糖尿病の2倍、がんの20倍以上に上ると言われています。腎臓病は「隠れた流行病」と呼ばれるほど世界中で脅威が拡大していますが、多くの人がまだ恐ろしさを理解していないのが現状です。
日本でも、慢性腎臓病(CKD)の患者は年々増加傾向にあり、成人の約8人に1人に該当する1,300万人を超えると推計されています。患者増加の背景にあるのは、やはり高齢者が増えてきていること。高齢になるとCKDのリスクは高まりますし、同じくリスク因子となる高血圧や糖尿病を基礎疾患としてお持ちの方も増えています。
CKDの早期発見・重症化予防は喫緊の課題
CKDが末期腎不全にまで至ると、週3回・1回4時間の透析治療が必要になり、医療費の問題だけでなく、患者さんご自身の身体的・精神的負担や行動の制限が大きくなってしまいます。しかし、早期に発見して重症化を予防できれば、高血圧や糖尿病と同じように治療しながら普通の生活を送ることができます。
早期発見、重症化予防のためには、かかりつけ医と腎臓内科との連携が不可欠です。高血圧や糖尿病、高脂血症など、普段かかりつけ医の先生方が診療されている患者さんの中には、CKDの患者さんが含まれている可能性があります。そのため、血清クレアチニン値やeGFR、尿蛋白や尿潜血など、腎臓の機能を見る検査を、毎回でなくても定期的に組み入れていただくことで、早期発見につながるのです。
CKD治療には
専門医とかかりつけ医の連携が不可欠
治療の面においても、かかりつけ医の先生方との連携は欠かせません。CKDの原因疾患は多岐にわたり、管理方法も病期によって異なるため、腎臓内科の専門医でないとなかなか判断が難しいケースがあります。また、同じ病気でも、決して皆さんが同じ転帰をたどるとは限りません。例えば糖尿病性腎症でも、早い段階で腎不全になる方もいらっしゃれば、腎機能障害があまり進まない方もいらっしゃいます。急に悪くなってきた時には、いつでも私たち専門医にご相談いただければと思います。
また近年は、経口腎性貧血治療薬やSGLT2 阻害薬など、CKDに適応を持つ新しい薬剤が認可され、治療の幅が広がっていますが、認可されてからまだ日が浅いため、薬剤を使い慣れていない先生方も多いように感じます。もし薬剤の使い方で苦慮するケースがあれば、薬剤のご提案や適正使用についてのアドバイスなどもできますので、ちょっとした疑問でもぜひお気軽にご相談ください。
早期から末期まで、
腎疾患のさまざまな病期に対応
当科の強みは、腎疾患を早期から末期まで診療できるところです。例えば、腎臓の機能は正常でも、尿蛋白や尿潜血が出ているごく初期のCKDの患者さんに対しては、積極的に腎生検を行い、原因の究明に努めています。また、腎性貧血やCKD-MBDといった合併症が出ている中等度のCKDの方に対する薬物療法にも対応しています。
さらに末期になれば、血液透析や腹膜透析、腎移植といった腎代替療法も行っています。当院の泌尿器科の先生方は積極的に移植も行っており、当科と泌尿器科で連携を取りながら、患者さん一人ひとりにより適した腎代替療法を選択していただけるシステムを構築しています。
行政とも密に連携し、
地域のCKD対策に尽力
当科では行政と連携したCKD対策も行っています。西宮市のCKD予防連携事業では、CKD患者の早期発見と重症化予防を図るため、健診のデータをもとに、CKD患者が専門医に確実に受診できる仕組みづくりを実施しています。また、西宮市だけではなく兵庫県全体でもCKD対策連携協議会を立ち上げており、私は神戸大学の先生と共に共同代表を務めています。。
行政とのCKD対策が機能し始めてから、当科では腎生検の件数が増えつつあります。腎生検を行った患者さんのうち、IgA腎症の方が7~8割ほどいらっしゃるのですが、その方たちに扁摘・ステロイドパルス療法を行うと、尿蛋白・尿潜血反応が寛解するなど、良好な結果が出ています。やはり若いうちに、適切な時期に検査をし、適切な治療を行うことは、非常に重要だと思いますね。これからも地域の病院やクリニックの先生方と手を携えて、行政とも密に連携しながら、地域医療に貢献できるよう努めていきたいです。
Doctor's Profile
くらがの たかひろ
倉賀野 隆裕
腎・透析内科
教授
- 専門分野
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- 腎不全、血液透析療法
- 資格
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- 日本透析医学会 透析専門医
- 日本腎臓学会 腎臓専門医
- 日本内科学会 認定内科医
- 一般社団法人日本透析医学会 役員
- 日本腎臓リハビリテーリョン学会 理事
- 医学博士(2003年)
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