複雑・多様化する食道がんの現状
近年の高齢化に伴い、食道がん罹患患者も高齢化しています。高齢の方は既往・併存疾患を持っている場合が多いため、食道がんの手術以外のことにも気を配る必要があります。また、この数年はCOVID19の影響で、がん検診や健診を控えている方や、かかりつけ医への受診が遅れてしまう方がいらっしゃるせいか、より進行した段階での受診が増えている印象があります。がんは進行するほどスピードが速くなるため、「あと半年早く受診していれば、リンパ節への転移や周囲の臓器への浸潤がなかったかもしれない」といった症例も多く見られます。
他科と協力し、多岐にわたる症例に対応
当院の食道がん手術件数は増加傾向にありますが、中でも治療法に頭を悩まされるような「一筋縄ではいかない」症例が増えていると感じます。特に最近は、声帯を残せるか残せないかに関わってきたり、頸部で血管をつないで血流を補充したりする複雑な手術が多く、耳鼻科や形成外科の先生方との合同手術を行うケースが増えています。他にも、抗がん剤なしで手術をするパターンと抗がん剤を使ってから手術をするパターン、そのまま胃を延ばしてつなぐパターン、胃の上に小腸を移植してつなぐパターンなど、当科で行っている食道がんの手術にはさまざまなパターンがあります。このように、他科と連携しながら多岐にわたる症例に対応できるところが、大学病院ならではの強みではないかと思います。
外科と内科のスムーズな連携
進行性食道がんにおいては、まず抗がん剤による化学療法を行ってから手術をする方法が標準治療とされていますので、外科と内科との連携が欠かせません。当院では、上部消化管内科で化学療法を行ってから、上部消化管外科に戻ってきていただくという形を取っていますが、2週間に1回のカンファレンスで内科と外科の情報共有を必ず行っています。カンファレンスで治療の進行状況を確認するのはもちろん、副作用が強くて抗がん剤を続けるのが難しい場合は早めに切り上げて手術を行うなど、患者さん一人ひとりの状況に合わせて臨機応変に対応しています。内科と外科の連携が非常に良く取れていることも、当院の強みの一つですね。
マンパワーや設備面も充実
当科では、食道・胃の外科治療を専門とする7名の医師で入院・外来患者さんに対応しており、うち5名が日本内視鏡外科学会の技術認定医です。認定医が多く在籍しているため、複数名で分担しながら長時間にわたる手術を行うことができます。こうしたマンパワーの充実が手術時間の短縮にもつながり、患者さんの負担を軽減できるだけでなく、医師の負担も軽減されることでより高い安全性を担保できるのです。
また、設備面においても、プロジェクションマッピングの技術を応用したMIPS(Medical Imaging Projection System)という新システムを導入し、胃の血流を評価して、血流の良い箇所を確実に選んで吻合できるようになったことで、より精度の高い手術を実現しています。
最善の医療を提供できるよう全力を尽くす
近年は食道がんの手術に対応できる病院の数が減りつつあり、一部の施設に集中してきている印象があります。しかし、ここまでお伝えしてきたような、マンパワーや設備面の充実、他科との連携など、さまざまな条件が揃っている病院でないと、複雑・多様化する食道がんに挑んでいくのは難しいのではないかと思います。環境があまり整っていない施設だと術後のトラブルなどに十分に対応できないケースもあり得ますので、地域の先生方にはぜひしっかりとした対応ができる施設に患者さんを送っていただきたいですね。
当院では十分な環境を整えた上で、症例ごとにチームの英知を結集し、最善の結果を提供できるように常に全力を尽くしていますので、地域の先生方にはぜひ少しでも早く病変を見つけていただき、何かあればいつでも気軽にご相談いただければと思います。
Doctor's Profile
くらはし やすのり
倉橋 康典
上部消化管外科
講師/病棟医長
- 専門分野
-
- 消化器;食道・胃・十二指腸
- 資格
-
- 日本外科学会 外科専門医・指導医
- 日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医・消化器がん外科治療認定医
- 日本内視鏡外科学会 技術認定医
- da Vinciコンソールサージャンライセンス取得者
過去に開催された「兵医サタデーモーニングセミナー」のアーカイブ動画は、兵庫医科大学病院の登録医制度「武庫川クラブ」にご登録済みの先生方、 および一部の関連医療機関の先生方のみ視聴可能なコンテンツです。上記のインタビュー記事を読んで「アーカイブ動画を視聴したい」と思った方は、武庫川クラブへのご登録をお願いします。
武庫川クラブ(登録医制度)へのご登録はこちらからDoctor's Interview