診療科について

ご挨拶
兵庫医科大学病院 泌尿器科では、外科的アプローチと内科的アプローチを効率よく組み合わせた集学的治療によって、常に患者さんの⽣活の質(QOL:Quality of Life)の向上を意識した診療を⾏っています。
山本 新吾 (やまもと しんご) 診療部長
診療体制

ロボット・腹腔鏡を中心としたがんの手術治療に加えて、腎移植、小児泌尿器科、成人の尿道形成などの専門領域が充実しています。
診療医師は、⽇本泌尿器学会専⾨医・指導医、がん治療専門医、泌尿器腹腔鏡技術認定医、腎移植認定医、小児泌尿器科学会認定医などの資格を有しています。
高度な専門医療

1)手術支援ロボット「ダビンチ」を使用した、体への負担が少ない手術を行っています。
2)兵庫県の中心施設のひとつとして年間15-20例、これまでに377例の腎移植を行っています。
3)根治性の低い内視鏡治療に替わって、開放手術による尿道形成術を行っており、関西一円から患者さんを受け入れています。
4)先天性泌尿器疾患の再建手術を長年実施しており、新生児から成人期まで高度なケアを提供しています。
主な検査・設備
尿路内視鏡検査
①膀胱尿道鏡
内視鏡カメラを使って、尿道と膀胱内を観察する検査です。尿道麻酔や仙骨麻酔下に軟性膀胱鏡、硬性膀胱鏡を用いて行います。排尿障害や血尿の原因などを調べる検査です。
②尿管鏡
膀胱尿道鏡よりも細い内視鏡カメラを使って、尿管・腎盂内を観察する検査です。主に下半身麻酔下に行います。尿管の狭窄や尿管がん・腎盂がんの有無を調べるための検査です。
尿路造影検査
①静脈性腎盂造影
腎盂から膀胱までの尿路全体を描出する検査です。血管内に造影剤を投与し、造影剤が尿路に流れたところをレントゲン撮影します。腎臓の位置・形態、尿管の本数や通過障害の原因を調べるための検査です。
②逆行性腎盂造影
静脈性尿路造影よりも詳しく腎盂・尿管を描出する検査です。膀胱鏡を用いて尿管の中にカテーテルを入れて造影剤を注入して、尿管の狭窄やがんの存在を調べます。
③CTウログラフィー
造影CTを用いて尿路を描出する方法です。画像処理を行うことで3D画像として解析することができます。
④膀胱造影
膀胱の形や容量、損傷の有無、尿管への逆流がないかを調べる検査です。カテーテルを膀胱内に入れて、造影剤を注入して行います。
⑤尿道造影
尿道の狭窄や損傷を調べるための検査です。造影剤を尿道に注入して行います。
尿流動態検査
尿の排出や、膀胱に尿をためる機能を評価する検査です。カテーテルを挿入しない検査(尿流測定、残尿測定)とカテーテルを挿入する検査(膀胱内圧測定、尿道内圧測定など)に分けられます。排尿障害、神経因性膀胱の精査のために行われます。
前立腺生検
肛門近くの皮膚もしくは直腸を通って生検針を刺し、前立腺の組織を採取する検査です。超音波を用いて、仙骨麻酔・局所麻酔下に行います。前立腺がんが疑われる場合(血液検査でPSAの値が高い、直腸診で硬いものを触れる、MRIで悪性所見がある等)に、確定診断のために必要な検査です。
移植腎生検
移植腎の組織を採取する検査です。超音波を用いて局所麻酔下に行います。拒絶反応や腎炎の再発の診断など、移植腎の状態を詳しく調べるための検査です。
主な対象疾患と診療内容
副腎腫瘍
副腎は左右の腎臓の上にある小さな内分泌臓器です。副腎に腫瘍ができてホルモン分泌が過剰になると高血圧、糖尿病などの原因となることがあり、ホルモンの種類によって褐色細胞腫、原発性アルドステロン症、クッシング症候と呼ばれます。手術で摘出が必要なことがありますが、ほとんどの手術は腹腔鏡で行います。
腎がん
腎細胞がんは腎実質から発生するがんです。約80%の腎細胞がんが症状を伴わず、CTや超音波検査などの画像診断で偶然発見されます。手術で完全に切除できれば比較的予後は良好です。 一方、血尿、腹部腫瘤、疼痛、発熱、貧血、食欲不振、体重減少などの症状が発生してから発見される腎細胞がんは、転移を伴う進行がんであることが多く、予後も悪いとされており、薬物療法を含む集学的治療の対象です。
腎盂(じんう)・尿管がん
腎盂(じんう)・尿管は、尿が腎臓で生成された後の通り道です。ここにできる腫瘍は尿路上皮がんと言って、膀胱がんと同様の組織です。症状としては血尿が多いですが、腫瘍によって腎臓からの尿の流れに障害が出ると腎盂が腫れる水腎症になります。治療は腎盂がん・尿管がんともに病気のある側の腎尿管を摘除します。ほとんどの症例で腹腔鏡手術で行います。
膀胱がん
膀胱がんはその袋を裏打ちしている膀胱粘膜である尿路上皮から発生します。ほとんどの膀胱がんは痛みも伴わず突然の血尿(無症候性肉眼的血尿で)から見つかります。抗菌薬でよくならない難治性膀胱炎をよく調べると膀胱がんが見つかることもありますが、このような場合には上皮内がんなど比較的悪性度が高い場合が多いとされています。
膀胱がんは、表在性膀胱がんと浸潤性膀胱がんに区別されます。表在性膀胱がんは内視鏡的切除で治療できますが、膀胱の筋肉の層まで浸潤している浸潤性膀胱がんは内視鏡的には完全に切除することができません。そのため、浸潤性膀胱がんでは、膀胱をすべてとってしまう膀胱全摘術が標準治療として行われますが、兵庫医科大学病院 泌尿器科で抗がん剤動脈注入療法による膀胱温存療法を行っています。
前立腺がん
前立腺は膀胱のすぐ下にあり、そのまん中を尿道が貫いています。精液の一部を産生するなど男性の性機能に重要な役割を担っています。前立腺がんの確定診断では、針生検によって前立腺の組織を取って顕微鏡で調べることが必要となります。前立腺がんの治療には手術療法、射線療法(外照射、小線源、重粒子)、ホルモン療法などさまざまな治療法があります。 どの治療法を選択するかは、年齢、がんの進行程度(病期)、がんの悪性度(グリソンスコア6~10)、診断時の血中PSA値によって決定されます。 特に早期がん(病期A,B)においては、手術療法や放射線療法の長期成績が同程度と考えられているため、患者さんの希望を大きく取り入れながら決定されます。
精巣腫瘍
精巣腫瘍は精子をつくる細胞ががん化したものです。転移がなければ精巣を摘除するのみで治癒します。転移がある場合、抗がん剤を使った化学療法が必要となりますが根治が可能です。転移巣が消えてしまった場合にはそのまま経過観察になりますが、転移巣が残った場合には外科的に切除することもあります。
尿路感染症
尿路感染症とは尿路に起こる感染症で、ほとんどが細菌によって生じます。熱が出ないものとしては膀胱炎が、熱が出るものとしては腎盂腎炎、前立腺炎、精巣上体炎があります。基礎疾患がないものを単純性感染といいます。基礎疾患があるものを複雑性感染といいますが、原因としては結石、膀胱尿管逆流、排尿障害などがあります。重症感染の場合は、基礎疾患の治療と抗生剤投与を入院で行うことがあります。
腎不全と腎移植
日本人の10人に1人(1,300万人)が慢性腎臓病(CKD)と言われており、その最も重い病状である末期腎不全の治療には透析と腎移植の二つがあります。腎移植の最大の利点は「本来の腎臓の働きをほとんどすべて補うことができる」という点です。それにより小児から70歳以上の高齢患者さんまで腎移植によって生命予後の改善が期待でき、食事や日常生活の制限が少なくなり、旅行やスポーツもしやすくなります。
近年は血液型が合わない不適合腎移植や血縁のない夫婦間移植がそれぞれ3割と増加しており、いずれも良好な成績となっています。また、維持透析を行わずに腎移植する先行的腎移植の成績が良好であることが明らかとなり件数が増加しています。また、生体腎移植ドナーの精神的・身体的負担を最小限にするため、腎提供を決める前に十分な時間をかけて全身のチェック、がん検診、腎臓の詳しい検査を行います。ドナーの手術は安全性と低侵襲の点から腹腔鏡手術を導入しています。
尿路結石
尿の通り道にできた結石の総称を尿路結石といい、その場所により腎結石、尿管結石、膀胱結石と呼ばれます。今日の治療の主体は、内視鏡による破砕です。
前立腺肥大
前立腺は、男性の膀胱の前下部、直腸膨大部の前面に位置する栗の実様の器官であり、精液の一部となる液を分泌して生殖に関与すると言われています。前立腺肥大症では、特に就寝後にトイレにいく回数が多くなる(夜間頻尿)ことで始まることが多く、やがて尿線が細くなり、残尿感や排尿の最後に尿がポトポトこぼれる(排尿終末時尿線滴下)などが現れます。治療は薬物療法が第一選択ですが、効果が乏しい場合には内視鏡手術が適応となります。
神経因性膀胱
脳・脊髄・末梢神経の障害による排尿の異常です。症状は多彩ですが、頻尿や排尿障害が多く、原因と病状により薬物療法や間欠導尿などが行われます。
過活動膀胱
頻尿が主要な症状です。突然起きる強い尿意(尿意切迫感)や、 トイレに間に合わずに尿失禁をおこすこと(切迫性尿失禁)もあります。治療は薬物療法が主体です。
尿道狭窄・断裂
尿道狭窄症は、さまざまな原因で尿道が狭くなったり閉塞したりて、尿が出なくなる、あるいは出しにくくなるという病気です。.外傷や尿道内のカテーテル操作が原因として起こります。内尿道切開や尿道ブジーという処置が一般的です。軽い狭窄では有効なことがありますが、治療後に再び狭窄する症例では尿道形成術が行われます。
●「尿道狭窄症」の専門治療については こちら
停留精巣
停留精巣とは生まれた時に、片側または両側の精巣が陰嚢まで達せず途中にとどまるものをいいます。1歳前後で手術で降ろすこと(精巣固定術)が一般的です。
膀胱尿管逆流
尿管が膀胱とつながるところ(尿管膀胱移行部)では、膀胱の尿が尿管へ逆流しないようになっています(逆流防止機構)。この機構に障害があったり未熟なために、排尿時などに膀胱から尿が尿管やさらに腎臓にまで逆流する病気のことを膀胱尿管逆流症といいます。この状態は尿路感染を起こしやすく、高熱を伴う腎盂腎炎などの原因となり、腎機能が悪化することもあります。膀胱尿管逆流症は年齢とともに自然に改善し治癒する可能性があります。このため乳幼児では抗菌薬の服用で尿路感染を治療・予防しながら自然治癒を待ちます。しかし、くり返す尿路感染や腎機能低下があれば、「尿管膀胱新吻合術」という逆流を防止する手術や、尿管口周囲へ補強剤を注入する手術をおすすめしています。
先天性水腎症
水腎症は尿路の途中で流れが悪くなっている場所があり、腎盂(じんう)が拡張した状態のことです。最も多いのは腎盂尿管移行部狭窄症で、そのほか尿管膀胱移行部狭窄症、尿管瘤などが原因となります。水腎症のなかには、腎機能障害につながるものもあり、腎盂形成術などが行われます。
尿道下裂
外尿道口が亀頭部先端になく亀頭部後面から会陰部にかけて位置していることがあり、尿道下裂といいます。尿道下裂では、包皮は亀頭の背中側に偏っており、陰茎が下向きに引っ張られているように屈曲している特徴的な形態をとっています。手術は、陰茎の屈曲を直し、外尿道口を亀頭部先端に近づけて、可能な限り正常な陰茎の形態とすることを目的として行います。このために尿道を形成する手術が必要になります。 ほとんどの症例で手術は1回で行いますが(一期的手術)、再手術例や変形の強い尿道下裂の場合は手術を2回に分けて行うこと(二期的手術)もあります。
夜尿症・小児尿失禁
夜尿症は、トイレットトレーニングが獲得された後も 6歳を過ぎて夜間睡眠中に無意識に排尿する状態をいいます。 10歳でも約5%の子供に発生すると言われています。原因はさまざまで、膀胱機能障害、睡眠覚醒障害、抗利尿ホルモン分泌障害、自律神経障害、心理ストレスなどがありますが、 これらが複雑に交じり合っているものと考えられています。
排尿日誌などで病状を評価し、昼間症状のつよいものは排尿指導や抗コリン剤などで膀胱機能の改善をまず図ります。昼間症状のない夜尿症では抗利尿ホルモンやアラーム療法が選択となります。
精巣捻転
精巣捻転は、精巣がそれにつながる精索(せいさく)を軸としてねじれて血管が締め付けられるため血流が途絶し、精巣が壊死(えし)する病気です。 6~12時間以内に血液の流れを回復しないと精巣は壊死します。 治療は、ねじれた精索を戻して血液の流れを回復させて精巣を陰嚢内に固定することで、緊急手術として行われます。
男性不妊
結婚後の夫婦が通常頻度で避妊をせずに夫婦生活をしながら1年間妊娠に至らない場合が、「不妊症」であり、妊娠希望夫婦の10~15%を占めます。少なくとも男性側に原因が考えられる時に男性不妊症といいます。男性側の原因とは「精子の数や質の異常」であることが多くを占めます。
性機能障害
勃起、射精、性欲の障害があります。それぞれの原因に応じた治療を考えます。
診療実績
2023年の診療実績
悪性疾患 | 腎細胞がん・腎盂尿管がん | 腎尿管悪性腫瘍手術 |
43 (うち腹腔鏡手術 26、ロボット支援下腎部分切除術 12) |
---|---|---|---|
膀胱がん | 根治的膀胱摘除術 | 4 (うち腹腔鏡手術 2) |
|
TUR-BT | 103 | ||
前立腺がん | ロボット支援下根治的前立腺摘除術 | 47 | |
密封小線源療法 | 5 | ||
良性疾患 | 腎移植 | - | 13 (うち生体腎移植 11、献腎移植 2) |
生体腎移植ドナーの腹腔鏡腎採取術 | 11 | ||
副腎腫瘍 | 副腎摘除術 | 15 (うち腹腔鏡手術 14) |
|
小児泌尿器疾患 | 膀胱尿管逆流症手術 | 9 (うち腹腔鏡手術 1、経尿道手術 1) |
|
尿道下裂手術 | 6 |
||
停留精巣固定術 | 10 | ||
腎盂形成術 | 7 (うちロボット支援下手術 7) |
||
成人尿道形成術 | - | 54 (うち端々吻合術 26、代用組織利用手術 14) |
2022年の診療実績
悪性疾患 | 腎細胞がん・腎盂尿管がん | 腎尿管悪性腫瘍手術 | 43 (うち腹腔鏡手術 29、ロボット支援下腎部分切除術 10) |
---|---|---|---|
膀胱がん | 根治的膀胱摘除術 | 10 (うち腹腔鏡手術 5) |
|
TUR-BT | 118 | ||
前立腺がん | ロボット支援下根治的前立腺摘除術 | 42 | |
密封小線源療法 | 11 | ||
良性疾患 | 腎移植 | 17 | |
生体腎移植 | 12 | ||
献腎移植 | 5 | ||
生体腎移植ドナーの腹腔鏡腎採取術 | 12 | ||
副腎腫瘍 | 副腎摘除術 | 17 (うち腹腔鏡手術 17) |
|
小児泌尿器疾患 | 膀胱尿管逆流症手術 | 11 (うち腹腔鏡手術 3、経尿道手術 1) |
|
尿道下裂手術 | 19 | ||
停留精巣固定術 | 19 | ||
腎盂形成術 | 20 (うちロボット支援下手術 16) |
||
成人尿道形成術 | 42 (うち端々吻合術 21、口腔粘膜利用手術 21) |
2021年の診療実績
悪性疾患 | 腎細胞がん・腎盂尿管がん | 腎尿管悪性腫瘍手術 | 46 (うち腹腔鏡手術 31、ロボット支援下腎部分切除術 5) |
---|---|---|---|
膀胱がん | 根治的膀胱摘除術 | 13 (うち腹腔鏡手術 7) |
|
TUR-BT | 86 | ||
前立腺がん | ロボット支援下根治的前立腺摘除術 | 40 | |
密封小線源療法 | 10 | ||
良性疾患 | 腎移植 | 15 | |
生体腎移植 | 11 | ||
献腎移植 | 4 | ||
生体腎移植ドナーの腹腔鏡腎採取術 | 11 | ||
副腎腫瘍 | 副腎摘除術 | 10 (うち腹腔鏡手術 8) |
|
小児泌尿器疾患 | 膀胱尿管逆流症手術 | 9 (うち腹腔鏡手術 2、経尿道手術 2) |
|
尿道下裂手術 | 11 | ||
停留精巣固定術 | 8 | ||
腎盂形成術 | 7 (うちロボット支援下手術 6) |
||
成人尿道形成術 | 53 (うち端々吻合術 27、口腔粘膜利用手術 13) |