卵巣がんの治療でも妊娠を諦めない~患者さんの負担を抑えたがん治療と、将来の妊娠のために~
当院では、最新のロボット手術と妊孕性(にんようせい)温存技術を組み合わせ、15歳から39歳のAYA世代といわれる女性の患者さんに向けた新たな卵巣がん治療を開始しました。子宮と卵巣の一部を温存した「卵巣がん手術」と、「卵子・卵巣の凍結保存」をロボット支援下で同時に行う技術で、2025年2月に全国に先駆けて第一例目をスタートしました。この技術を用いることにより、わずかな傷で、根本的な治療をしながら妊孕性を最大限に温存できます。
卵巣がん手術の負担を減らすための取り組み:ロボット支援下手術の導入
卵巣がんの治療では、お腹を切って子宮、卵管・卵巣、大網(※1)、後腹膜リンパ節(※2)を取り除く手術が標準的に行われます。こうした手術では、妊娠ができなくなるだけでなく、お腹に40~50センチの傷跡が残り患者さんの大きな負担となります。当院では、体への負担をできるだけ減らすため、全国に先駆けてロボット支援下の卵巣がん根治術を実施してきました。自由診療にはなりますが、腹部の5つの小さな穴から手術を行うため傷跡が目立たず、より早期の回復・社会復帰が可能になります。
卵巣がん治療における妊孕性(妊娠する力)温存と課題
AYA世代の患者さんの場合、片側の卵巣にできたごく初期のがんであれば、がんに侵されていない方の卵巣と子宮を体内に残して、後腹膜リンパ節と大網のみを切除する手術(妊孕性を温存した根治的卵巣がん手術)ができますが、お腹に大きな傷跡が残ります。術後に行う抗がん剤治療によって残した卵巣の機能が障害され、妊娠しにくくなる可能性も大きな課題です。これを防ぐのが、抗がん剤治療の前に卵子や受精卵、卵巣の組織を採取して凍結保存する技術(妊孕性温存)であり、近年、当院を含む高度な生殖医療施設で実施されるようになってきました。しかし、精度の高い卵巣がん手術と最新の妊孕性温存の両方を提供できる病院は全国的に少なく、これらは別々の医療機関で行う場合が多いのが実情です。
妊娠を諦めない卵巣がん手術:AYA世代に向けた兵庫医科大学の新しい取り組み
当院では、上記のロボット支援下手術と妊孕性温存技術を組み合わせ、AYA世代に向けた新たな卵巣がん治療を開始しました。子宮と卵巣の一部を温存した卵巣がん手術と、卵子・卵巣の凍結保存をロボット支援下で同時に行う技術で、2025年2月に全国に先駆けて第一例目をスタートしました。この技術を用いることにより、わずかな傷で、根治性を担保しながら妊孕性を最大限に温存できます。
当院は、最新のがん治療を提供する特定機能病院であると同時に、AYA世代のがん患者さんの妊孕性温存を支援する「兵庫県がん・生殖医療ネットワーク」の中核施設です。若い女性が仕事や将来の妊娠を諦めずに卵巣がんを克服できるよう、より低侵襲な治療に積極的に取り組んで参ります。
※1 大網(だいもう)・・・胃の下部から垂れ下がっている脂肪組織
※2 後腹膜(こうふくまく)リンパ節・・・骨盤及び腹部大動脈周囲のリンパ節
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投稿日:2025/04/28