診療科について

ご挨拶
吉原 哲 (よしはら さとし) 診療部長
診療体制
外来は毎日、一般血液・造血器腫瘍を専門とする医師2名、出血・血栓性疾患、HIVを専門とする1名の3診体制で診療を行っています。
血球増多、血球減少、貧血、リンパ節腫脹、出血傾向など、血液疾患を疑われて来院された患者さんに、それぞれの専門医が対応させていただきます。
病棟は、無菌室20床を含む46床を有しており、強力な化学療法が可能であり、また特に造血幹細胞移植に力を注いで診療にあたっております。
移植が必要な患者さんについては、ご紹介いただければ対応出来るよう準備を整えております。
高度な専門医療
「造血器腫瘍の診断、治療に関して」
白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫といった造血器腫瘍(血液がん)は、適切な治療を行うことで良好な予後が得られうる疾患です。当科では、最新のエビデンスに基づいて、個々の患者さんにベストな治療を行うよう心がけています。
悪性リンパ腫、多発性骨髄腫に関しては、治療導入は入院で行っておりますが、多くの症例ではその後の治療は外来にて治療を行っています。そのため、仕事を継続しながら治療を受けられる患者さんも多くおられます。
濾胞性リンパ腫等の低悪性度リンパ腫の再発、難治例に対し、放射性同位元素標識抗体療法を積極的に行っています。
発性骨髄腫に対し、微小残存病変をモニタリングし、治療の最適化を行っています。
「造血幹細胞移植について」
難治性の白血病、リンパ腫等に対して、当院では1980年から同種造血幹細胞移植を行っており、本邦でも有数の移植症例数を有しております。血縁、非血縁ドナーからの骨髄移植・末梢血幹細胞移植(HLA半合致血縁者間移植を含む)、臍帯血移植の全てが可能です。骨髄腫・リンパ腫等に対する自家末梢血幹細胞移植も、適応症例に対して積極的に施行しています。
兵庫医科大学 先端医学研究所 医薬開発研究部門と共同で、同種造血幹細胞移植後の合併症に対する新たな細胞治療の開発を行っています。
「非腫瘍性疾患の診断、治療に関して」
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)など血小板の異常による出血性疾患、血友病、フォン・ヴィレブランド病を中心とする凝固の異常による出血性疾患など、さまざまな出血性素因を持つ疾患の鑑別診断、治療を行っています。
また、これらの出血傾向を持つ患者さんの手術時の止血管理を外科と共観のうえ行っています。
播種性血管内凝固症候群(DIC)、深部静脈血栓症(DVT)など血栓性疾患の原因精査・治療、および血栓症発症予防管理を行っています。
増加の一途をたどるHIV感染症・AIDSの治療を行っています。治療薬の進歩により、感染者の発病は激減しています。本院はHIV感染症診療拠点病院であり、当科だけではなく、院内の関連各診療科、医療社会福祉部、臨床心理部などと連携し、全科的に対応が可能です。
主な検査・設備
骨髄穿刺
腰にある腸骨(あるいは胸の中央にある胸骨)に針を刺して、骨の中にある骨髄組織を吸引する検査です。
骨髄異形成症候群、白血病や多発性骨髄腫などの病気では、腫瘍細胞が骨髄の中で増えるため、診断には必須の検査です。悪性リンパ腫でも、骨髄の中で腫瘍細胞が増えることがあります。また、血液細胞が減っている場合(再生不良性貧血などの病気が疑われる場合)には、血液細胞が骨髄できちんと作られているかどうかを判断するためにこの検査を行います。
骨髄生検
腰にある腸骨に太めの針を刺し、骨髄組織の一部をを採取します。
骨髄穿刺と同様、造血幹細胞の異常の有無を判断する場合に加え、造血幹細胞以外の骨髄組織の異常や、骨髄への血液以外の悪性腫瘍の転移の有無を検索する場合に骨髄生検検査を実施します。
腰椎穿刺
背骨の隙間から針を刺して、髄膜(脊髄神経を包んでいる膜)の中を流れている髄液の一部を採取し、髄液の性状や、中に含まれている細胞の有無、種類を検査します。
血液の悪性腫瘍はしばしば髄膜に浸潤しますので、髄膜への浸潤の可能性がある場合には、悪性腫瘍の細胞が混じっていないかを確かめるために腰椎穿刺検査を実施します。
無菌室
白血病や悪性リンパ腫などの血液腫瘍にたいして、化学療法(抗がん剤治療)を行ったり、造血幹細胞移植を実施した場合、一時的に白血球がなくなり、細菌やウイルス、カビなど、さまざまな病原体を退治する力がなくなります。
この期間、これらの病原体の感染を防止するため、空気中に含まれている病原体を除去したきれいな空気の中で過ごしていただく必要があります。
無菌室は、フィルターを通して病原体を除去する装置を取り付けた部屋で、当院では無菌室が20床稼働しています。
主な対象疾患と診療内容
骨髄異形成症候群
低リスク群では経過観察または輸血療法等の支持療法を行います。
高リスク群では、メチル化阻害剤による治療や、白血病に準じた抗がん剤治療を行います。同種造血幹細胞移植を行うこともあります。
再生不良性貧血
軽症の場合、経過観察を行います。
中等症ないし重症では、輸血などの支持療法のほか、免疫抑制療法やトロンボポエチン受容体作動薬を用いた治療を行います。同種造血幹細胞移植を行うこともあります。
急性骨髄性白血病
世界標準である寛解導入療法・地固め療法を行います。分子標的療法等の新規治療も積極的に取り入れています。再発・難治症例に対しては適切な造血細胞移植を行います。
急性リンパ性白血病
抗がん剤治療が中心となりますが、年齢によって治療プロトコルが異なります。同種造血幹細胞を行うこともあります。
慢性骨髄性白血病
主に外来で、分子標的治療薬(チロシンキナーゼ阻害剤)による内服加療を行っています。
慢性リンパ性白血病
病状が進行するまでは経過観察をします。治療は、抗体と抗がん剤の組み合わせが中心でしたが、飲み薬のみによる治療も可能となりました。
成人T細胞白血病・リンパ腫
HTLV-1ウイルスを保有している方に発症する白血病・リンパ腫です。抗がん剤治療を行った後、可能であれば同種造血幹細胞移植を行います。
骨髄増殖性腫瘍
赤血球が多くなる多血症、血小板が多くなる血小板増多症、骨髄が線維化する骨髄繊維症などの病気が含まれます。
外来診療を中心に、造血を抑制する薬によって血栓症などの合併症予防を行ったり、分子標的薬を用いた治療を行ったりします。
造血細胞移植
超大量化学療法である自家移植と、免疫療法である同種移植を行っています。同種移植ではHLA不適合移植を数多く行い、日本全国から最重症の患者さんが紹介されてきます。
悪性リンパ腫(濾胞性リンパ腫)
診断されても経過観察のみの場合もあります。治療は、病状等に応じて抗体製剤(CD20抗体)の場合と、抗体と抗がん剤治療を組み合わせることがあります。初回治療は入院で、その後は外来治療が中心となります。
悪性リンパ腫(びまん性大細胞型性リンパ腫)
悪性リンパ腫の中で最も頻度の多い組織型です。多くの場合、抗体製剤と抗がん剤治療の組み合わせで治療します。初回治療は入院で、その後は外来治療が中心となります。
悪性リンパ腫(縦隔大細胞型リンパ腫)
比較的若い患者さんに多い組織型です。抗体製剤と抗がん剤治療の組み合わせ(DA-EPOCH-R療法)で治療します。
悪性リンパ腫(末梢T細胞性リンパ腫)
抗がん剤治療が中心となりますが、近年、多数の新規薬剤が登場し、治療法が急速に進歩しています。初回治療は入院で、その後は外来治療が中心となります。
悪性リンパ腫(ホジキンリンパ腫)
病期により、抗がん剤治療(ABVD療法)または抗体製剤と抗がん剤治療の組み合わせ(A+AVD療法)により治療を行います。初回治療は入院で、その後は外来治療が中心となります。免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブまたはペムブロリズマブ)を使用することもあります。
悪性リンパ腫(節外性NK/T細胞性リンパ腫)
病期により、抗がん剤治療と放射線療法の組み合わせ(RT-DeVIC療法)または抗がん剤治療(SMILE療法等)を行います。造血幹細胞移植(自家移植または同種移植)を行うこともあります。
悪性リンパ腫(マントル細胞リンパ腫)
多くの場合、抗体製剤と抗がん剤治療の組み合わせで治療します。初回治療は入院で、その後は外来治療が中心となります。造血幹細胞移植(自家移植または同種移植)を行うこともあります。
悪性リンパ腫(MALTリンパ腫)
胃のみに病変がある場合は、消化管内科にてピロリ除菌を行います。眼瞼のみに病変がある場合は、放射線治療が中心となります。全身に病変がある場合は、抗体製剤のみ、または抗体製剤と抗がん剤の組み合わせで治療します。
悪性リンパ腫(バーキットリンパ腫)
抗体製剤と抗がん剤を組み合わせた治療(R-Hyper CVAD/MA療法またはDA-EPOCH-R療法)を行います。
悪性リンパ腫(リンパ芽球性リンパ腫)
急性リンパ性白血病と同様の治療を行います。同種造血幹細胞移植を行うこともあります。
多発性骨髄腫
近年、目まぐるしく治療が進歩していっている病気です。内服薬(免疫調節薬)と注射薬(皮下注射又は点滴)を組み合わせて治療します。初回治療は入院で、その後は外来治療が中心となります。70歳以下で臓器機能に問題がない場合は、自家末梢血幹細胞移植を行います。
ALアミロイドーシス
多発性骨髄腫に準じた治療を行います。心臓、腎臓など臓器病変に応じて、循環器内科、腎・透析内科などと共同で治療を行います。自家末梢血幹細胞移植を行うこともあります。
POEMS症候群
多発性骨髄腫に準じた治療を行って病状をコントロールしたのち、自家末梢血幹細胞移植を行います。
MGUS
免疫グロブリンに偏りがある状態ですが、すぐに治療が必要な状況ではありません。多発性骨髄腫に進展するリスクがあるため、定期的な経過観察を行います。
特発性血小板減少性紫斑病
主に外来で、ステロイド剤やトロンボポエチン受容体作動薬を用いた治療を行います。
血栓性血小板減少性紫斑病
発症時は入院で血漿交換療法と免疫抑制剤の投与を行います。
病状が安定した後は、外来で免疫抑制剤を減量します。
特発性血栓症(アンチトロンビン欠乏症・プロテインC欠乏症・プロテインS欠乏症)
主に外来にて、血栓症の発症予防・再発予防のため抗凝固療法を実施します。
血友病
主に外来にて、凝固因子製剤の定期補充療法や、代替抗体製剤の皮下注射によって出血を防止する治療を行います。
先天性凝固異常症(Von Willebrand病、先天性第VII因子欠乏症など)
主に外来にて、それぞれの出血症状に応じて、各因子の補充療法を行います。
手術や内視鏡など、出血を伴う処置や治療を実施する際にも、補充療法によって止血管理を行います。
後天性血友病
主に入院により、止血治療と免疫抑制療法を実施します。
病状が安定した後は、外来で免疫抑制剤を減量します。
HIV感染症・AIDS
無症状の場合は外来にて抗HIV薬の内服治療を行います。
AIDS発病の場合は、病状によって入院での治療を行い、病状が改善した後は外来での治療に移行します。
診療実績
2023年の診療実績
<造血器腫瘍> | 急性骨髄性白血病 | 46例 |
---|---|---|
急性リンパ性白血病 | 27例 | |
骨髄異形成症候群 | 31例 | |
骨髄増殖性疾患 | 4例 | |
悪性リンパ腫 | 169例 | |
多発性骨髄腫 | 84例 | |
<造血幹細胞移植症例数> | ||
同種末梢血幹細胞移植 | 24例 | |
臍帯血移植 | 14例 | |
自家末梢血幹細胞移植 | 6例 | |
CAR-T細胞治療症例数 | 37例 | |
<非腫瘍性疾患> | 特発性血小板減少性紫斑病 | 13例 |
血友病 | 21例 | |
Von Willebrand病 | 1例 | |
血栓性血小板減少性紫斑病 | 5例 | |
HIV感染症/AIDS | 21例 | |
後天性血友病 | 6例 | |
先天性血栓性素因(PC,PS,AT欠乏症) | 1例 | |
後天性血栓性素因(LA等) | 2例 | |
その他13例 |
13例 |
2022年の診療実績
<造血器腫瘍> | 急性骨髄性白血病 | 66例 |
---|---|---|
急性リンパ性白血病 | 22例 | |
骨髄異形成症候群 | 26例 |
|
骨髄増殖性疾患 | 4例 | |
悪性リンパ腫 | 138例 | |
多発性骨髄腫 | 66例 | |
<造血幹細胞移植症例数> | ||
同種末梢血幹細胞移植 | 24例 | |
臍帯血移植 | 16例 | |
自家末梢血幹細胞移植 | 13例 | |
CAR-T細胞治療症例数 | 25例 | |
<非腫瘍性疾患> | 特発性血小板減少性紫斑病 | 14例 |
血友病 | 22例 | |
Von Willebarnd病 | 3例 | |
血栓性血小板減少性紫斑病 | 3例 | |
HIV感染症/AIDS | 19例 | |
後天性血友病 | 2例 | |
先天性血栓性素因(PC, PS, AT欠乏症) | 2例 | |
後天性血栓性素因(LA等) | 2例 | |
その他 | 8例 |
2021年の診療実績
<造血器腫瘍> | 急性骨髄性白血病 | 87例 |
---|---|---|
急性リンパ性白血病 | 20例 | |
骨髄異形成症候群 | 30例 | |
骨髄増殖性疾患 | 9例 | |
悪性リンパ腫 | 166例 | |
多発性骨髄腫 | 44例 | |
<造血幹細胞移植症例数> | ||
同種末梢血幹細胞移植 | 32例 | |
臍帯血移植 | 7例 | |
自家末梢血幹細胞移植 | 14例 | |
CAR-T細胞治療症例数 | 21例 | |
<非腫瘍性疾患> | 特発性血小板減少性紫斑病 | 15例 |
血友病 | 27例 | |
Von Willebarnd病 | 6例 | |
血栓性血小板減少性紫斑病 | 2例 | |
HIV感染症/AIDS | 23例 | |
後天性血友病 | 7例 | |
先天性血栓性素因(PC, PS, AT欠乏症) | 1例 | |
後天性血栓性素因(LA等) | 1例 | |
その他 | 10例 |