兵庫医科大学病院
泌尿器科

腎不全(腎臓移植)

疾患概要

腎不全の状態と透析療法

腎臓の機能が低下すると、体内の余分な水分や尿毒素を体外に排泄することができなくなり、尿毒症という状態になります。 この状態を放置すると生命に危険が及びます。 弱った腎臓の代わりに、透析で水分や尿毒素を抜くのが透析療法です。

透析療法には血液透析と腹膜透析がありますが、どちらも腎機能の一部しか代償できないため、尿毒素が高い状態が続き、健康な人と同様の体調にはなりません。 また、治療の影響で日常生活における時間的、身体的制約が大きな問題になります。透析以外の治療法として、腎臓移植を選択することができます。

腎移植とは

腎臓の機能が低下した人に、あらたに腎臓を移植する手術を行って、腎不全の治療を行う方法です。
血液透析・腹膜透析をしている患者さん、透析未導入であるが末期腎不全の患者さん、の両方が腎移植の対象となります。

腎移植には2通りの方法があります。元気な家族・親族から腎臓を提供していただく生体腎移植と、お亡くなりになった方から提供していただいた腎臓を移植する献腎移植です。

腎移植と透析療法の違い

健康な腎臓を提供していただき腎移植をうけて順調な経過をたどると、尿が健康な人と同じようにでますので、尿毒症から解放されます。 腎移植後は失われた腎臓の機能はほぼ正常に回復し、時間に縛られることもなく、食事や水分の制限も大幅に緩和されます。

腎移植の特徴

ただし、腎移植は腎不全の治療法のひとつですので、「移植をうければ腎不全とも病院とも縁が切れる」ということではありません。
「移植手術の後も腎移植の治療を続ける」と考えてください。

腎移植は3段階にわけて考えることができます

・第1段階 移植準備
・第2段階 手術
・第3段階 移植後の免疫抑制治療

腎移植の利点と欠点

腎移植後に移植腎が順調に働いている場合には、健康な人と同じように尿が出て、血液中のクレアチニンも>1~2mg/dlとほぼ正常になります。
それに伴って、いろいろな尿毒症の症状が改善しますが、その内容には個人差があります。

  • 食事がおいしくなる
  • 頭がすっきりする
  • 「健康を取り戻した感じ」を実感する
  • 水分制限がなくなる
  • 基本的には、透析中のような食事制限がなくなる(暴飲暴食は勧められません)
  • 生活上では週に2-3回の透析病院通院または腹膜透析が不要になる
  • 腎不全のために男性ホルモン、女性ホルモン分泌が変調をきたしていた場合、腎移植後にホルモン分泌が正常化する事により、生理が順調に戻る場合も多く見られます。 多くの患者さんが腎移植後に出産されています(しかしながら、妊娠・出産は腎臓には負担がかかります)。 男性では勃起機能が回復された方も見られます。

しかし残念ながら良いところばかりではなく、欠点も多く残されています。

  • 腎臓を提供してくれる人(ドナー)の存在が必要
  • 移植の手術を受ける必要がある
  • 手術が成功しても、そのままではせっかく移植した腎臓に拒絶反応がおこり、腎機能を失ってしまうので、拒絶反応を予防する数種類の薬(免疫抑制剤)を服用する必要があります。 この免疫抑制剤を服用しながら拒絶反応や合併症が起こらないようにする、あるいは起こった場合には早期に治療する事が必要で、これが腎移植治療の第3段階といえます。 この治療は移植した腎臓が働いているかぎりずっと続ける必要があります。
  • 免疫抑制剤を服用していても拒絶反応が起こることがあり、拒絶反応が進行すれば移植した腎臓の機能が低下し、透析に戻らなければならない場合があります。
  • 免疫抑制剤には色々な副作用があり、合併症として体に色々な不具合が起こることがあります。 合併症はごく軽いものから生命に危険が及ぶものまで程度も色々です。 副作用の予防や治療のために生活(特に食事)に制限が必要なこともあります

腎移植の準備

生体腎移植のドナーについて

最も重要なことはドナー候補者の方が自分の意志で腎臓を提供してあげたいという気持ちを持っておられるということです。腎提供を無理強いされたり、納得ができていないまま手術をすることはありません。
また、元気なドナーの方から片方の腎臓を提供していただきますので、ドナーが安全に腎提供の手術を受けられるか、腎臓提供後も長く元気に過すことが見込めるかを非常に詳しく調べます。
手術前には腎臓だけでなく全身の状態を詳しく調べます。準備期間は通常3〜6ヵ月ほど必要です。
もし、ドナーの方に何かの病気が見つかった場合には治療を先に行い、可能であればその後に移植を行います。

生体腎移植の腎提供者(ドナー)の条件と安全性について

腎臓の提供とは(生体腎移植の提供)

2つある腎臓のうち1つを手術で摘出し、 その腎臓を腎不全で治療を受けているあなたの家族に提供してあげることを「腎提供」といいます。(死後に臓器を提供する献腎移植の提供とはまったく別のもので、提供者となる方は元気に日常生活を送っている人になります)
腎臓を提供できる条件は以下のとおりです。

1. 成人(20歳以上、年齢の上限は75歳程度が目安です)
2. 自分の意志でご家族に腎臓を提供してあげたいと考えておられる人(お二人の関係は肉親か配偶者、または配偶者の肉親である事)
3. 重症の持病がないこと(時間をかけて慎重に検査します)
4. 片方の腎臓を提供した後も残った腎臓に十分な働きが見込まれること
5. 移植を受ける方(レシピエント)との医学的相性が問題ないこと
6. ドナーとレシピエントの二人ともに腎移植不適応となる感染症や病気がない事
7. 血液型が同じでない場合でも(例:提供者がA型→受者がB型)移植は可能です。

腎提供の実際

■1. 準備
提供後に健康が損なわれることがないよう、あらかじめ病気がないかどうか外来で検査を受けていただくことになります。持病のある方、ご高齢の方では安全のため長めの準備期間が必要です。

■2. 入院と手術
<手術の方法について>
腎臓提供の手術は全身麻酔で行います。手術方法は兵庫医科大学病院では、手術後の創部痛を軽減して回復を早めるために、腹腔鏡手術を行っています。

・入院
手術の5~7日前に入院し、手術直前の検査を行います。
(2021年4月現在は、新型コロナウィルスの影響で安全確保のため全国的に2週前の入院が必要となっています)

・手術
手術は腹腔鏡を使用して、片側の腎臓を摘出します。
全身麻酔で行い、麻酔も含めて約4〜5時間かかります。

・術後経過
手術の翌日か2日後に歩行を開始できます、食事は2日後に開始します。
合併症がなければ1週間で家に帰れる状態になりますが、通常は手術後10日間入院で体調の回復を待って退院になります。

・退院後の生活
最初は2~3回通院していただき、体調と腎臓の機能を調べます。手術の傷が治れば仕事に復帰することができます。事務的な仕事の場合は退院後1~2週間で職場復帰が可能ですが、重いものを持ったり、 身体を激しく使う仕事の場合には退院後1~2ヶ月間は無理をせず徐々に身体を慣らしていく必要があります。その後は年に1~2回定期検査と診察をします。

■3. 腎提供の危険性について

【腎提供をしたら自分の腎臓が悪くなるのか】
腎機能が正常であれば、片側の腎臓を摘出しても日常生活や仕事に影響がありません。

【腎提供をしたら何が変わるのか】
しかし、腎臓を提供した事により、2個ある腎臓が1個になるために、 手術前に比べると腎機能が低下していることになります。 腎臓のもつ予備機能が減少し、血液検査でもクレアチニンという腎機能の数字が腎臓提供の前と比べて高くなります。
片側の腎臓を摘出する事による腎機能の低下の度合いは人により異なり、提供者の方の年齢が高い場合、 高血圧・糖尿病・高脂血症などの持病がある場合には腎臓の予備機能がもともと低下している事が多いので、 腎機能が影響を受けやすくなります。腎機能の低下が著しい場合には「腎臓病」ということになり、日常生活にも支障をきたしますが、 手術前の検査で大きな問題がない方だけが腎提供をされていますので、 実際には腎臓病として治療が必要となることはほとんどありません。

【腎臓の摘出手術の危険性はどのくらいか、どのような手術合併症があるのか】
当院で腎臓を提供した人で、 これまでのところ生命にかかわるような大きな手術合併症がおこった人はおられません。 しかし、腎臓の摘出術には以下のような合併症の可能性があり、もし合併症がおこった場合には迅速な治療を行います。出血・呼吸器・循環器合併症・腸閉塞・腸管などの隣接臓器の損傷・創部感染・血栓症・術後の創部痛などがあります。

【腎提供後に気をつける事】
日常生活や仕事に大きな支障はないと予想されます。 しかし、腎提供後は残った腎臓にこれまでよりも大きな負担がかかる事は避けられません。
従って、体重・血圧・血糖・コレステロールなどを定期的に検査して必要であれば治療を受け、 残った腎臓を大事にするとともに他の病気にも注意してこれまで以上に健康に留意していただく必要があります。
生体腎移植では、ドナーの方とレシピエントの方がお二人とも長く健康でいる事が目標です。

生体腎移植の準備(レシピエントの準備)

腎移植の治療を安全に受けていただくために、また、移植後の合併症をできるだけ少なくするために、手術前に腎全身の状態を詳しく調べます。 重要な項目は心臓、肺、肝臓、糖尿病、胃腸の内視鏡検査、X線検査、色々な臓器の癌検診などです。
原則的には、腎臓以外に病気が見つかった場合には先に治療してから移植手術を行います。 レシピエントとドナーのお二人の検診が終了したら、移植の相性を調べる検査をします。お二人の採血をして、組織適合性という遺伝子のタイプを調べると同時にドナーの人に対する抗体を持っていないかどうかを調べます。

準備期間は通常3〜6ヵ月ほど必要です。全ての準備が終了したら腎移植の日程を決め、その日に合わせてレシピエントは早めに入院していただきます。

献腎移植の準備(登録と待機)

献腎移植を待つ場合には、「日本臓器移植ネットワーク」に献腎移植を希望する登録をする必要があります。
手続は移植施設で行いますが、書類手続きと血液検査が必要で、登録料と検査料を支払う必要があります。献腎移植の登録と検査は健康保険の適用とはならないため、身障手帳をお持ちの方でも自己負担が発生しますが、住所地の自治体から補助が出る場合がありますので、移植施設でお聞きください。詳しく説明します。

献腎移植の登録が済んだら、透析治療を受けて仕事や日常生活を送りながら移植の機会が来るのを待ちます。この献腎移植待機期間が日本では非常に長いことが問題となっています。現状では成人の患者さんが登録してから移植を受けるまでの待機期間は平均で16年以上となっています。待機期間は大変長く感じられますが、ある日突然移植医からあなたに電話が入り、「ドナーの方から腎臓を提供していただける見込となりました。あなたが候補者のお一人になったので、今すぐに移植を受ける気持ちがありますか?体調はいいですか?」というお話しをします。

献腎移植はお亡くなりになった方からかけがえのない大切な腎臓をいただいて移植します。いただいた腎臓はすぐに移植手術をする必要がありますので、移植を受けるかどうかの返事はその場でしていただく必要があります。その時には色々ながん検診等をしている時間的余裕がないため、普段から検診などを受け、異常が見つかった場合には積極的に治療を受けて体調を整えておいてください。 登録の更新手続を兼ねて、1年に1回移植施設(例えば兵庫医大)で診察を受けていただきます。

腎移植の手術・免疫抑制治療

腎移植手術

手術は下腹部の左右どちらかを約15cm切開して行います。 提供された腎臓を冷やしてから腎臓の動脈・静脈をレシピエントの骨盤内の動脈・静脈につなぎます。

次に尿管を膀胱につなぎます。通常は手術中に移植された腎臓から尿が出ます。手術時間は5~7時間ぐらいです。

術後の免疫抑制治療

手術終了後に、腎移植の治療の第3段階が始まります。

腎移植を希望される方の中には、手術が終わったら治療が完了するという誤解をされている方もおられますが、本当の腎移植の治療は、手術が終わってからはじまる、とも言えます。すなわち、移植手術が順調に終わっても、その後の治療がなければすぐに拒絶反応がおこり、腎臓は働かなくなってしまいます。拒絶反応を予防して腎臓が働き続けるようにするのが免疫抑制剤と呼ばれる薬剤です。 腎移植患者さんは、移植をうけた腎臓が働き続けているかぎり、免疫抑制剤を飲み続ける必要があります。

免疫抑制治療では十分な効果を発揮するとともに副作用を小さくするために、2~3種類のお薬を併用します。 毎日きっちりお薬を飲まないと拒絶反応がおこる危険性が大きくなります。 免疫抑制剤をきちんと内服していても拒絶反応は軽度のものも含めて約30%の確率で発生します。その場合には拒絶反応の治療薬を臨時で使います。

移植手術から約1カ月間は拒絶反応や副作用が起きやすいので入院治療をおこない、頻繁に血液や尿の検査を行います。免疫抑制剤は徐々に減量し、退院の頃には維持量と呼ばれる少ない量になっています。

拒絶反応とは

拒絶反応は腎移植をうけた患者さん全員に起こる可能性があります。移植後早期に発生し、急激に進行する「急性拒絶反応」と安定期に発生する「慢性拒絶反応」など、色々な程度や種類の拒絶反応があります。急性拒絶反応の発生率は約30%ですが、90%以上は治療により治ります。拒絶反応は移植腎に起こる免疫反応で、症状として尿量の減少、発熱、移植腎の痛みといったわかりやすいものから、蛋白尿、血液検査のクレアチニン上昇など、症状のない、わかりにくいものまで色々です。確定診断のためには移植腎に針を刺して、ごくわずかの組織を採取して顕微鏡検査で診断する「腎生検」が必要です。

拒絶反応が進行すると最終的には移植腎の機能が失われ、透析を行うか2度目の腎移植を受ける必要がでてきます。そのため、拒絶反応には早期の診断・治療が重要となります。

移植後の合併症について

腎移植後の合併症は多彩なものがありますが、原因は二つに分けられます。

1.腎不全・透析の影響で心臓、血管、骨等に問題があり移植後に発症する場合、2.免疫抑制剤の副作用で感染症やその他の合併症が起こる場合です。長期的にはがんの発生率が高くなると考えられています。いずれの合併症も拒絶反応の場合と同様に、現在のところ全てを予防する事は不可能ですので、早期に発見し、早期に治療する事が重要です。

腎移植後の生活・社会復帰

手術後の通院治療

退院後は定期的に通院して検査を行ないます。通院間隔は最初は週1回ですが、安定期に入ると徐々に間隔を延ばして月1回になります。しかし、体調や腎臓に変調をきたした場合には臨時で診察したり、病状によっては緊急入院で治療をします。

腎移植後の生活・社会復帰

職場や学校への復帰は、患者さんの病状により時期が異なりますが、一般的には、退院後約1ヶ月で学校や職場(事務的な仕事の場合)に戻る事ができると考えられます。 しかし、激しい運動や重いものを持つような仕事は移植後6ヶ月間控えてください。移植前の透析治療中の骨障害に加え、数ヶ月の入院生活と免疫抑制剤による骨への影響があり、急な運動負荷は骨に対する悪影響が予想されるからです。その後は徐々にスポーツなどで運動量を増やすことも大事です。
移植後1年以上経過していて体調や腎機能が良好であれば妊娠・出産を考えることができますが、必ず担当医と相談してください。

腎移植の治療成績について

移植の治療効果の目安として「5年生着率」を使います。これは移植手術の5年後に腎臓が機能していて患者さんもお元気にされている割合を示します。 最近の日本全体での腎臓移植後5年生着率は80~90%ですが、兵庫医科大学病院の腎移植成績は5年生着率が93%、10年生着率が80%と良好な成績です。腎移植を受けた患者さんの生命予後は、10年生存率で90%であり、腎移植は透析治療よりも生命予後が良好というデータがでています。

腎臓移植はドナーの方からいただいた大切な腎臓と、あなた自身の命を守るために地道な努力を続けていく治療です。移植を受けた多くの患者さんが10年、20年以上お元気で通院しながら過されています。生体腎移植ではドナーとレシピエントのお二人ともが長くお元気で、充実した生活を送れるよう私達もお手伝いしています。

泌尿器科

多彩な腎泌尿器疾患に、確実で高度な先進的治療を提供します

泌尿器科は尿路(腎、尿管、膀胱、尿道)、副腎および男性⽣殖器(前⽴腺、精巣など)のさまざまな疾患を治療する科です。
兵庫医科大学病院 泌尿器科では、外科的アプローチと内科的アプローチを効率よく組み合わせた集学的治療によって、常に患者さんの⽣活の質(QOL:Quality of Life)の向上を意識した診療を⾏っています。

山本 新吾(やまもと しんご)診療部長

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