兵庫医科大学病院
呼吸器外科

悪性胸膜中皮腫(外科治療)

疾患概要

悪性胸膜中皮腫とは胸膜(を構成する中皮細胞)の“がん”で、稀な腫瘍です。悪性胸膜中皮腫は壁側胸膜から発生し、最初は胸壁側の袋状の胸膜で増殖します(ⅠA期)。

次に、隣接する肺、横隔膜、縦隔脂肪、心膜や限局性に胸壁(ⅠB期)し、さらに同側の胸腔内リンパ節に広がります(Ⅱ期、ⅢA期)。やがて、広範囲に胸壁浸潤、心臓・大血管・気管・食道や腹腔内に進展したり、反対側の胸腔内リンパ節に転移します(ⅢB期)。離れた臓器に広がることもあります(Ⅳ期)。一般的に手術で切除出来るのはⅢA期までです。このような進行度はIntemational Mesothelioma Interest Group (国際中皮腫研究会:IMIG)分類が使用されています(図 病期分類)。

原因・症状

アスベスト(石綿)の吸入(曝露)が発生には強く関わっています。職業曝露(職場でアスベストを吸入した場合)と環境曝露(飛散してきたアスベストを吸入した場合)の2通りあります。国内では2006年にアスベストの全面使用禁止となりましたが、悪性胸膜中皮腫はアスベストの曝露から30〜40年経って発生するため、今後30年ほどは患者さんが増え続けると推測されます。珪酸塩からなるアスベストの発がん機構は複雑です。細胞への直接作用と、炎症細胞を介した間接作用による酸化ストレスが関与し、結果としてがん抑制遺伝子の異常を高率に認めます。

大小の胸水貯留により発見されることが多く、時に呼吸困難をきたすこともあります。さらに、腫瘍が進行し、胸壁や周囲の臓器へ浸潤して胸痛、咳、胸膜肥厚などの異常をきたす場合があります。

検査

画像診断には、胸部X線のスクリーニングとしての検査にも意味はありますが、より精密な、胸部CT、FDG-PET検査が病期診断、組織診断の生検部位の決定、さらには治療効果判定に非常に有用です。確定診断は、組織の胸腔鏡手術による切除(生検)が不可欠です。特に早期の腫瘍の確定には、全身麻酔科の外科生検が有用です。

病理組織診断では、形態から上皮型(最も多い)・肉腫型・二層型・繊維形成型に分類されます。また免疫組織化学的な検討が必須で、陽性(染色される)マーカーとしてサイトケラチン・カルレチニン・メソテリン・WT-1・D2-40などがあり、逆に陰性マーカーとしてCEA・TTF-1などがあります。これらを組み合わせた抗体パネルによって、診断精度が著しく向上しています。最近では、より低侵襲な胸水からの細胞をセルブロックとして診断する方法や、血液検査による新たなバイオマーカーの探索も行われています。

治療

悪性胸膜中皮腫は非常に予後の悪い悪性疾患です。中皮腫に対するどの術式も体に対して大きなダメージを与えてしまいます(大侵襲手術)。したがって、中皮腫に対する外科治療は非常に慎重におこなわれるべきだと考えています。

外科切除の基本方針は、可能な限り肺を温存します。従来の片肺を全部摘出する胸膜肺全摘術(EPP)という術式は、術後の生活の質(クオリティーオブライフ)を損います。ここ10年は肺を温存する術式(胸膜切除/肺剥皮術、P/D)を優先的に適応しています。心配される治療効果としての生存成績はEPPと同等かそれ以上です(図 MPM手術術式の比較)。

外科切除を行う場合には、必ず集学的治療を行います。集学的治療とは、複数の治療法を併用してより良い治療効果を目指します。例えば、手術+化学療法(+放射線療法)を行います。集学的治療は国際的なガイドラインで推奨されている方法です。当院では原則として、手術前に化学療法(術前化学療法)を行い、引き続き外科切除を行うプロトコールを採用しています(図 MPM治療プログラム)。
一方で、手術をしても予後が不良と予測される患者さんには、ダメージの大きな手術を行わないことが大切と考えています。予後が不良と予測されるのは以下の場合です:(1)組織型が上皮型ではないタイプ(肉腫型・二層型)(2)術前化学療法の効果がなく、病気が進行する場合。

その他

職業および環境曝露が問題となっているアスベスト禍の悪性胸膜中皮腫について、現在も新たな臨床研究を進めております。中皮腫センターを有する当院へ患者さんが集中し、経験する症例は全国でも最多です。当院では悪性胸膜中皮腫における呼吸器外科治療の専門チームとして研鑽を重ねております。

悪性胸膜中皮腫に対する外科治療の実績は、世界でもトップレベルです。当院における手術件数を示すグラフの通り年々増加しています(図1 兵庫医大中皮腫手術例)。

呼吸器外科

自分や、自分の家族が受けたい医療の実践を

呼吸器疾患(悪性・良性)専門の外科を担当する科です。スタッフ全員が「自分や、自分の家族が受けたい医療」を目標として、呼吸器外科診療全般に対し、臨床外科医の立場で、日々全力を尽くしています。

舟木 壮一郎(ふなき そういちろう)診療部長

  1. トップページ
  2. 胸・肺
  3. 悪性胸膜中皮腫(外科治療)

交通アクセス

最寄り駅
阪神電鉄「武庫川駅」西出口より徒歩5分
住  所
〒663-8501 兵庫県西宮市武庫川町1-1

外来受付のご案内

受付時間 8:30から11:00
  • 受付は月~金曜と土曜(第3)
  • 午後の受付は予約の方のみ
  • 土曜 (第3を除く)
  • 日曜
  • 祝日 (成人の日、敬老の日を除く)
  • 年末年始 (12月29日から1月3日)
電話番号 0798456111(代表)
月~金曜、土曜(第3) 8:30から16:45

診療科の一覧を見る

 

よくご覧いただいているページ