疾患概要
胃はおなかにある袋状の臓器で、入口(噴門部※左の図の赤い丸)は食道と、出口(幽門部※青い丸)は十二指腸とつながっています。胃の裏には膵液(消化液)やインスリンを作る膵臓があります。胃の右上には肝臓があり、そこで作られた胆汁は胆管に集められ、膵液と一緒に十二指腸に流れます。胆管の途中には胆汁を一時的に貯めておく胆のうがあります。
胃は食物を一時的に貯蔵する臓器です。食道を通って胃に入った食物は胃酸と混ざり合って粥状になり、適量ずつ十二指腸へ送り出されます。胃にはタンパク質を部分的に消化する働きはありますが、主な役割はこの「食物を攪拌して粥状にする」ことです。
胃壁の厚さは3mmほどで、内側から粘膜、粘膜下層、筋層、漿膜下層、漿膜の5層からなっています。胃がんはこのうち最内層の粘膜から発生します。発生原因としては塩分の多い食事、野菜や果物の摂取不足、喫煙などの生活習慣に加え,ピロリ菌の感染と強い関連があります。健常な胃にピロリ菌が感染すると胃粘膜の炎症を起こし、さらに慢性に経過すると胃粘膜の萎縮をきたすことから、これが胃がん発生の素地になると言われています。日本人、特に中高年者はピロリ菌の感染率が高いため、胃がんはとても頻度の高い病気の一つです。
原因・症状
早期胃がんの多くは無症状です。上腹部痛や腹部膨満感、食欲不振などが現れることもありますが、胃がんに特有な症状はありません。進行がんになると体重が減ったり、腫瘍からの出血による吐血や下血などが見られたりします。非常に進行した状態では上腹部に硬い腫瘤(しゅりゅう)を触れることもあります。
がんが全身に広がり、腹水がたまったり、体の表面のリンパ節が腫れたりして発見されることもありますが、通常このような場合には手術の対象にはなりません。
検査
1) 内視鏡検査・・・通常の観察に加えて,超音波を使ってがんの深さを調べることもあります。
2) バリウム検査・・・最近はあまり行われなくなりました。
3) CT検査・・・転移の状況を調べるために行います。
4) 腫瘍マーカー(血液検査):がんの存在により異常値を示す採血項目のことです。胃がんではCEAやCA19-9を測定します。
5) PET・MRI検査:上記の検査に加えて、病気の広がりを調べるためにPET検査やMRI検査を行うことがあります。
治療
1)内視鏡(胃カメラ)で剥がし取る
粘膜にとどまる浅いがんの場合は、病変部分を内視鏡(胃カメラ)で剥がしとることでがんを治すことができます。
2)手術
胃がんの標準的な治療法で、転移している可能性のあるリンパ節を含めて胃を切除します。
3)化学療法(抗がん剤治療)
胃の縄張りから離れたリンパ節への転移や腹膜播種があるステージIVBの場合は、手術の前に抗がん剤治療を行います。その際、あらかじめ転移の有無を診断するために、全身麻酔下の腹腔鏡検査で直接おなかの中を観察させていただくこともあります(審査腹腔鏡といいます)。
当院で行っている胃がん手術の特色
(1)胃をできるだけ残します
胃は食べたものをいったん貯留し、粥状にして少しずつ腸に送りだす役目をもった臓器です。そのため、胃を切除すると食事量が少なくなって体重が減り、体力が落ちて術後の生活の質に大きく影響します。胃を全部取る胃全摘では20%近くも減ることがあります。当科ではがんのできた場所や広がりを考慮しながら、可能な限り「胃を残す」ことを目標として診療にあたっています。とくに近年増加している胃上部や食道胃接合部がんに対しては、通常胃全摘術が必要と判断されるような症例でも、噴門側胃切除術によって「胃全摘を避ける」ことができる可能性があります。「胃を残して欲しい」というのは、当科にセカンドオピニオンを求めて受診される患者さんの最も多いご要望です。できるだけお応えできるような方法を検討いたします。
(2)進行した胃がんもあきらめません ーコンバージョン手術
ステージIIIB/C、 IV胃がんは手術だけでは根治が難しい病気です。そこで、いろいろな抗がん剤と組み合わせた集学的治療を受けていただくことになります。その際、患者さん一人ひとりの治療方針は消化器内科や病理診断科などと連携したキャンサーボード(多部門の専門家による症例検討会)において決定します。発見時に切除不能と診断されたステージIV胃がんでも抗がん剤治療が著効し、切除できるまで小さくなることもあります。当科ではコンバージョン手術と呼ばれるこのような手術を多く手掛けています。
また、より治る可能性の高い治療、より延命効果が期待できる治療、より合併症(副作用)の少ない治療を、全国のがん専門病院や大学病院と連携し臨床試験として行っています。治療法として期待されてはいるものの保険診療では承認されていない薬剤/投与方法も、一部治験や先進医療として実施しています。どうかあきらめずにご相談ください。
(3)精度の高い内視鏡手術、ロボット支援手術を実施します
内視鏡手術は創が小さいので術後の痛みが少なく、早く離床でき、回復が早いのが利点です。高齢患者さんでは術後せん妄の予防に有効です。外科医にとっても、高精細スコープによる拡大視によって精緻な手術を行えるというメリットがあります。さらに手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使うことにより、あたかも外科医の手を小さくしてお腹の中で操作しているかのような自由度の高い手術ができるようになりました。当科には日本内視鏡外科学会の技術認定医が4名在籍し、熟練したスタッフで手術を行っています。
時代に応じた、専門性の高い手術・治療を行います
私たちは、上部消化管(主に食道と胃)疾患の外科治療を中心に、1)治る手術、2)安全な手術、3)負担の少ない手術 をモットーとして診療を行っています。
手術の進歩は日進月歩。今や食道がんも胃がんも、より専門性の高い施設で治療を受ける時代です。
当科では大学病院の使命として最先端の手術をご提供するのはもちろん、いろいろな併存疾患をもったリスクの高い方の手術もお引き受けしています。
また、肥満や糖尿病、社会の高齢化に伴い今後増加が予想される食道胃逆流症など、がん以外の疾患に対する外科治療も行っています。
篠原 尚(しのはら ひさし)診療部長