疾患概要
2回以上、流産や死産を繰り返したことがある場合を「不育症」といいます。不育症にはさまざまな病態が複雑に絡み合っていることがあること、それぞれの病態ごとの治療方針が一定していないこと、ストレスなどの要因も関与して不育症の状態をさらに複雑にすること、たまたま赤ちゃんの異常が繰り返されただけの方々も含まれることなどより、とても難解な疾患とされています。
また不育症の原因を調べても60%ほどの患者さんはリスク因子不明(原因不明)と診断され、不安を多く抱えたまま治療に望まれている方も多いかと思います。しかし適切な検査と治療を行うこと、適切なフォローアップを行うことにより多くの方々は赤ちゃんを得ることができることも知られています。
原因・症状
不育症の主要なリスク因子としてされるものには、子宮形態異常(中隔子宮、双角子宮など)、抗リン脂質抗体症候群、甲状腺機能異常、夫婦染色体異常などが知られています。他にも先天的に血栓を起こしやすい場合(血栓性素因)、免疫異常を有する場合なども不育症のリスク因子となり得る可能性が指摘されています。
検査
これまでの妊娠について詳しくお話しをお聞かせいただくとともに、生活習慣についてもお話しを聞かせていただきます。流産の時期によって、リスク因子の推定ができたり、嗜好歴や生活習慣が不育症のリスク因子となっている可能性があるからです。
産婦人科の一般的な診察(内診・超音波・子宮がん検診など)に加え、不育症のリスク因子となるようなものをお持ちではないかを確認するため、採血検査などをさせていただきます。また超音波検査では3D超音波検査を導入し、子宮形態を低侵襲に評価させていただきます。また世界に先駆けた不育症研究も行っており、本学独自あるいは他研究期間と共同で高度な不育症のリスク因子検査をさせていただきます。
治療
不育症の治療では、リスク因子に応じた治療を行うことがとても重要です。
子宮形態異常の一つである中隔子宮を有する場合には、子宮中隔切除術を行っています。この手術子宮鏡という子宮に挿入したカメラで行いますので、非常に低侵襲に手術を行うことが可能です。抗リン脂質抗体症候群では、血栓という血の塊ができてしまい、流産や死産、妊娠高血圧症候群との関連性が認められています。このため抗リン脂質抗体を有する場合には、アスピリンとヘパリンというお薬を使い、身体の中に血栓ができないようにします。
甲状腺機能異常を有する場合には、当院の内分泌内科と協力しながら甲状腺ホルモン値の正常化させます。夫婦の染色体異常を有する場合には、当院の遺伝子医療部と連携をとり、カウンセリング受けて頂くことも可能です。
医師からのメッセージ
兵庫医科大学病院 産科婦人科・生殖医療センター不育症外来の特徴としてあげられることは、不育症を妊娠成立のための治療を含め、妊娠前からフォローアップさせていただき、そして妊娠が成立したあとも生殖医療センターから産科外来へとシームレスに連携して治療を受けていただけることです。これはありそうでなかなかないシステムであり、安心して治療に臨んでいただければと思います。
またもう一つの特徴は不育症の原因を免疫学の視点から研究し、臨床応用していることです。我々のこれまでの研究結果から、免疫異常を有する患者さんを特定することにより、薬物療法(γグロブリン療法、イントラリピッド療法など)を行うことで良好な成績が得られてきております。私どもの研究や不育症患者さんへの取り組みが少しでもみなさまのお役に立ち、一人でも多くの患者さんに子宝が授かることができるよう頑張ってまいります。
「女性に優しい診療」を心がけ, 専門医が丁寧に診察いたします
産婦人科は大きく4つの分野に分かれ、各分野の専門医が優しく丁寧に診療しています。
1. 産科学:妊娠の診断、妊婦健診、流産・早産・合併症妊娠等の管理、分娩、および産後のケア
2. 婦人科学:子宮・卵巣・卵管・腟・外陰部の良性・悪性腫瘍、炎症性疾患
3. 生殖医学:不妊症、体外受精、不育症
4. 内分泌学(女性医学):思春期・性成熟期・更年期の月経異常、ホルモン異常および諸症状のケア。女性アスリートの健康維持。
<strong><big>治療理念</big></strong>
・豊富な実績と経験に基づき、世界標準の診断・治療を提供します。
・体の負担が少ない(低侵襲な)治療法を選択し、早期の回復・社会復帰を目指します。
・安心・安全を確保し、最先端・高難度の治療にも取り組みます。
・病態の解明や治療法の開発を目指し、医学研究も積極的に行います。
馬淵 誠士(まぶち せいじ)診療部長