疾患概要
COPDとは、「Chronic Obstructive Pulmonary Disease」の略で、一昔前にいわれていた肺気腫や慢性気管支炎などを合わせた、「慢性閉塞性肺疾患」という病気のことです。40歳以上の人口の8.6%である約530万人の患者さんが存在すると推定されていますが、大多数が未診断、未治療の状態であると考えられ、適切な治療を受けているのは22万人ほどといわれています。本邦におけるCOPDの年間死病者数は約16,000人であり、死亡原因の第9位を占めています。
原因・症状
粉じん、大気汚染や乳幼児期の呼吸器感染、遺伝などが原因でもありますが、最大の原因は喫煙です。本人が喫煙をしていなくても、受動喫煙でも発症の原因となります。たばこの煙や化学物質などの有害物質の吸引によって、気管支の組織が炎症を起こし、痰が溜まることで空気が通りにくくなります。また、肺胞が破壊されて酸素をうまく取り込めなくなってしまいます。それにより歩行時や階段昇降など、身体を動かした時に息切れを感じる労作時呼吸困難や慢性の咳や痰が特徴的な症状です。一部の患者さんでは、喘鳴や発作性呼吸困難など、ぜんそくのような症状を合併する場合もあります。
検査
確定診断にはスパイロメトリーといわれる呼吸機能検査が必要です。最大努力で呼出した時にはける全体量(努力性肺活量)とその時に最初の1秒間ではける量(1秒量)を測定し、その比率である1秒率(1秒量÷努力性肺活量)が気道の狭くなっている状態(閉塞性障害)の目安になります。1秒率が70%未満であり、閉塞性障害をきたすその他の疾患を除外できればCOPDと診断されます。また、重症例では胸部エックス線画像で肺の透過性亢進や過膨張所見がみられることもあります。高分解能CTでは肺胞の破壊が検出され、早期の気腫病変も発見できますが、COPDの診断には閉塞性障害の有無が重要となります。
治療
喫煙を続けると呼吸機能の悪化が加速してしまいますので、禁煙が治療の基本となります。
薬物療法の中心は気管支拡張薬(抗コリン薬・β2刺激薬・テオフィリン薬)です。効果や副作用の面から吸入薬が推奨されており、主として長時間気管支を拡張する「吸入抗コリン薬」や「吸入β2刺激薬」が使用されています。気管支喘息を合併した症例や増悪を繰り返す場合は、吸入ステロイド薬を併用します。非薬物療法では呼吸リハビリテーション(口すぼめ呼吸や腹式呼吸などの呼吸訓練・運動療法・栄養療法など)が中心となります。低酸素血症が進行してしまった場合には在宅酸素療法が導入されます。さらに呼吸不全が進行した場合は、小型の人工呼吸器とマスクを用いて呼吸を助ける換気補助療法が行われることもあります。また、症例によっては過膨張した肺を切除する外科手術(肺容量減少術)が検討されることもあります。
患者さんに安心し信頼していただける質の高い医療の提供を心がけて
呼吸器内科で診療を行う病気は、腫瘍、感染症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支喘息、間質性肺炎など多岐にわたります。
なかでも、WHOの2020年度全世界での死亡原因予想で上位となることが予測されるCOPD・肺癌・肺炎(結核含む)など頻度の高い疾患や、地域特性の高い悪性胸膜中皮腫について最新のエビデンスに基づいた治療を行うことができるよう取り組んでいます。
先端分野の臨床と研究の実践、医師をはじめとする医療人の臨床教育、受診される患者さんにとって安心できる呼吸器領域の医療の提供を心がけています。
木島 貴志(きじま たかし)診療部長/主任教授