疾患概要
私たちが手や足を動かすとき、脳からの指令は脊髄→末梢神経を通り、筋肉に伝えられ、筋肉が収縮します。この末梢神経と筋肉のつぎ目(神経筋接合部)では、末梢神経側からアセチルコリンが分泌され、それが筋肉側にあるアセチルコリン受容体に結合します。このアセチルコリン受容体が自己抗体により破壊されることによってこの病気が起こります(図1)。
人口10万人当たり23人ほどの方が重症筋無力症を煩っており、胸腺腫、胸腺過形成を合併することがあります。
原因・症状
原因は、アセチルコリンが結合する筋肉の部位に対する自己抗体ができることです。患者さんの80~85%はアセチルコリン受容体抗体が陽性で、数%がMuSK抗体陽性です。アセチルコリン受容体抗体は胸腺で作られると考えられています。
症状は瞼(まぶた)が下がる、ものが二重に見える、飲み込みにくい、しゃべりにくい、手足に力が入らない、などです。症状は一日の中でも変動し、朝は比較的症状は軽く、夕方疲れると症状がひどくなるのが特徴です。(図2)
検査
以下のような検査があります。
1)アンチレックステスト
神経と筋の継ぎ目にあるアセチルコリンを分解する酵素(アセチルコリンエステラーゼ)を阻害する薬剤を投与することによって症状が良くなるかをみる検査(図3)
2)筋電図(反復刺激試験)
繰り返し筋肉を刺激し、疲労しやすいかをみる検査
3)アセチルコリン受容体抗体測定
アセチルコリン受容体に結合する自己抗体の量を調べる検査(血液検査で可能)
診断された場合は胸腺過形成、胸腺腫がないかどうかを調べるため胸部CTを行います。
治療
胸腺腫があるかどうか、眼筋型(眼にしか症状がないもの)あるいは全身型(眼以外にも症状があるもの)で治療法が異なります。胸腺腫がある場合は手術で胸腺腫を切除します。胸腺腫がない場合は眼筋型であれば手術をせず、全身型であれば手術を考慮します。
それ以外にステロイドや免疫抑制剤を使って自己抗体の産生を抑える治療を行います。重症の場合は血液浄化療法(血漿交換療法)や免疫グロブリン、ステロイドパルス療法などを行います。これらの治療を行っても改善しない場合、抗補体抗体(エクリズマブ)による治療を検討します。
メッセージ
本疾患に対しては近年新しい薬剤が開発されており、兵庫医科大学病院 脳神経内科でも治験を行っています。興味のある方は担当医にお尋ねください。
正確な診断を行うため、詳しく診察を行います
当科では、脳、脊髄、末梢神経、筋肉などの病気を診療しています。
血液検査などに異常がみられないケースもあり、詳細な診察を行っていく必要があります。兵庫県神経難病医療ネットワーク支援協議会の協力病院でもあります。
木村 卓(きむら たかし)診療部長