兵庫医科大学病院
アレルギー・リウマチ内科

全身性強皮症

疾患概要

全身性強皮症は英語でSystemic Sclerosis、略してSScと呼ばれます。Systemicとは「全身の」という意味で、病気が全身の臓器(消化器、肺、腎など)に多彩な症状を引き起こすことを示しています。Sclerosisとは「硬化症」、つまり代表的な症状である皮膚の硬化(硬くなること)から名づけられました。

SScは「膠原病(こうげんびょう)」の一つです。膠原病とは、通常はウイルスや細菌などの外敵と戦うための免疫が自分を標的にして、体のあちこち(皮膚、内臓、血管、関節など)に炎症を起こす病気の総称です。

厚生労働省の指定難病であり、皮膚硬化が肘や膝より体側におよぶ「びまん皮膚硬化型SSc」と、皮膚硬化が肘や膝から先や顔面に限局する「限局皮膚硬化型SSc」とに分類されます。びまん皮膚硬化型SScは皮膚硬化が広範囲で、進展が早く、内臓病変を伴いやすいです。一方、限局皮膚硬化型SScは皮膚硬化の範囲が狭く、ゆっくりとした進行で、内臓病変合併の頻度や程度は軽度とされています。

原因・症状

世界で多くの研究が行われているものの、原因は定かにはなっていませんが、免疫異常・血管障害・線維化など複数の要因が関係して発症する疾患と考えられています。なお、SScは遺伝する病気ではありません。本邦の患者数は2万人以上と推定されており、男女比は1:12で、どの年齢でも発症する可能性がありますが30~50歳代の女性に多いとされます(※)。

症状は「レイノー症状(寒さや精神的な緊張で指先が白色→紫色→赤色と変化して短時間で戻り、しびれ、冷感、痛みを伴う)」で始まることが多く、約95%以上の患者さんで見られます(※)。その他に、「皮膚硬化(皮膚が小さくつまみにくくなったり、指が腫れぼったくなったりする)」「皮膚潰瘍(皮膚の表面がなくなり、皮下組織が露出している状態。SScでは手足の血流が悪いため小さい傷が治りにくいため起こりやすい)」「関節炎」「消化器症状(消化管の動きが悪くなり胸焼けや嚥下困難などの胃食道逆流症・便秘・下痢・偽性腸閉塞などを起こす)」「肺症状(間質性肺炎による呼吸不全・肺高血圧症)」「心症状(不整脈)」「腎症状(腎クリーゼ)」などがあります。

臓器障害の中でも、特に肺高血圧症と間質性肺炎はSScの予後に影響すると考えられており、きちんとした診断と治療、定期的な検査が重要です。なお、症状は個人差が大きく、これらすべての症状が出現するわけではありません。

※参考
川口鎮司: 全身性強皮症. リウマチ病学テキスト改訂第2版. (日本リウマチ財団教育研修委員会, 日本リウマチ学会生涯教育委員会 編)、診断と治療社, 東京. 2016, pp211-217.

検査

一般的な血液検査に加え、血液検査で血液中の自己抗体(抗Scl-70抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体、抗RNP抗体など)といった免疫系の異常の有無を確認するための検査が重要です。全身の臓器への影響を評価するため、尿検査、画像検査(レントゲン検査、CT検査、超音波検査、食道造影検査など)、呼吸機能検査などを施行します。皮膚や内臓の病変が疑われる場合は、「病理検査(生検:体の一部の組織を採取し、顕微鏡で見る検査)」で診断することがあります。各検査は該当する臓器によって、その臓器を専門とする科と適宜連携して行います。

SScの診断は、診断のための基準に基づいて行いますが、症状や身体所見、検査所見などから総合的に判断します。皮膚硬化がない状態でも、手指の腫脹やダーモスコピー(拡大鏡の一種)で爪の甘皮部分の毛細血管の異常や点状出血の有無を確認することで診断を行う場合があります。



治療

治療の中心は、「➀自分に対する免疫の異常とそれによる炎症を抑えることを目的とした薬物治療」「②レイノー症状や内臓病変に対する対症治療」になります。

1.ステロイド薬

初期に使用されたり関節炎など炎症を抑える場合に1日に5~10mg程度使用することがあります。ステロイド薬による副作用や多量の使用により腎クリーゼを誘発するリスクがあり、症状に応じて検討します。

2.免疫抑制薬

間質性肺炎に対してシクロホスファミドを使用し、進行抑制を図ります。

3.リツキシマブ

2021年11月からSScで使用できるようになった薬です。皮膚の硬化を緩和します。

4.血流改善薬

循環障害に対して、プロスタグランジン製剤やビタミンE製剤、カルシウム拮抗薬、抗血小板薬などの血管拡張作用、抗血小板作用のある薬剤を使用します。難治性皮膚潰瘍に対して、肺高血圧症の治療薬であるボセンタンも使用されます。

5.抗線維化薬

SScの間質性肺炎では、線維化により肺が硬くなります。肺が十分ふくらまなくなったり、肺でのガス交換(体に必要な酸素といらなくなった二酸化炭素の交換)がうまくできなくなり、息苦しくなります。ニンテダニブは線維化を抑えて、呼吸機能低下の進行を抑制し、間質性肺炎の進行を遅らせる薬です。

6.消化器病変

胃食道逆流症にプロトンポンプ阻害薬、消化管運動促進薬など、腸管病変には消化管運動促進薬に加え、便通コントロールを行います。

7.日常生活指導

手袋やカイロを使用することで保温したり、寒冷を避けたりすることが大事です。冷えることで循環が悪くなり、傷ができたり治りにくくなったります。手袋やカイロはずっと使えないという声をよく聞きますが、手首や足首に固定できるカイロがあり、作業中も継続して使用でき、持続的な保温効果が期待できます(寝ている間は中止が必要です)。喫煙は血行を悪くするため、避けてください。

アレルギー・リウマチ内科

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当科は、リウマチ・膠原病などの全身性自己免疫疾患とアレルギー疾患を専門としています。近年、これらの疾患に対する診断技術の進歩と新規治療薬の開発は目覚ましく、「分からなかったことが分かる」ようになり、「できなかったことができる」ようになって来ています。我々は科学的根拠に基づき、より早期に診断し、病状、合併症、社会的背景などを考慮した個々の患者さんにとって最適の治療方針を提供することを目指しています。

東 直人(あずま なおと)診療部長

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