疾患概要
十二指腸はもともと腫瘍(しゅよう)が発生しにくい臓器です。特に乳頭部(膵液や胆汁の十二指腸への開口部)以外の場所から発生するものはまれですが、最近では、内視鏡(胃カメラ)検査で偶然発見される「腺腫(せんしゅ)」や「がん(表在性非乳頭部十二指腸腫瘍)」が増えてきました。ピロリ菌感染者が減ったことや除菌により、酸度の高い胃液が十二指腸に流れ込むようになり、それを中和するための十二指腸腺(Brunner腺)に負担がかかり、発生しやすくなったとも考えられています。ただし、本症の生物学的悪性度や治療の適応、予後などについては、医学的根拠がいまだ乏しいのが現状です。
治療
早期胃がんのように内視鏡を用いて腫瘍部分の粘膜を切除する(内視鏡下粘膜下層剥離術)ことで、ほとんどの場合は根治(こんち)を得られます。しかし、この操作はかなり難しく、「偶発症の発生率が高い治療法」になります。
<「偶発症の発生率が高い治療」になる理由>
①腫瘍が十二指腸の曲がり角があるため、内視鏡の操作性が不安定。
②粘膜が固いため、あまり浮き上がらない。
③筋層が薄いため、操作中に穿孔(せんこう:穴があくこと)しやすい。
④膵液・胆汁などの消化液の出口に近いため、弱くなった部分がしばらく経ってからから穿孔する。その場合、急性腹膜炎に対する緊急手術が必要になり、致死的な状態に陥ることがある。
一方、外科的に切除する場合は、十二指腸の外側からでは腫瘍がどこにあるかがわかりにくいため、きれいに取り切れなかったり、逆に過分に切除しすぎて、膵臓まで切除するような大きな手術になってしまったりする問題点があります。
このように、本来それほど悪性度の高くない腫瘍であるにも関わらず、安全で負担の少ない治療方法がこれまでもありませんでした。
時代に応じた、専門性の高い手術・治療を行います
私たちは、上部消化管(主に食道と胃)疾患の外科治療を中心に、1)治る手術、2)安全な手術、3)負担の少ない手術 をモットーとして診療を行っています。
手術の進歩は日進月歩。今や食道がんも胃がんも、より専門性の高い施設で治療を受ける時代です。
当科では大学病院の使命として最先端の手術をご提供するのはもちろん、いろいろな併存疾患をもったリスクの高い方の手術もお引き受けしています。
また、肥満や糖尿病、社会の高齢化に伴い今後増加が予想される食道胃逆流症など、がん以外の疾患に対する外科治療も行っています。
篠原 尚(しのはら ひさし)診療部長