疾患概要
胸とお腹を隔てている横隔膜には、食道がぎりぎり通る隙間があります。これを「食道裂孔(れっこう)」といいます。「食道裂孔ヘルニア」とは、胃がこの裂孔から胸へ飛び出してしまった状態です。ヘルニアは胃液が逆流しやすくなり、食道炎を起こします。
原因・症状
食道裂孔ヘルニアにより、「胃食道逆流症」や「逆流性食道炎」が起こり、それに伴う症状が出ます。最も多い症状は、胸やけ・呑酸(どんさん:酸っぱいものや苦いものがのどに上がってくること)です。その他にも、ゲップがよく出る、飲み込みにくい、胸が痛いといった症状も出ます。
胃食道逆流症とは
胃の内容物が食道へ逆流する病気です。英語で「Gastro Esophageal Reflux Disease」といい、頭文字をとってGERD(ガード)と呼びます。
逆流性食道炎とは
胃食道逆流症のうち、胃カメラで食道粘膜のただれ(食道炎)のあるものをいいます。逆流症状があり、胃カメラで食道炎を認めないものは「非びらん性胃食道逆流症」(Non-Erosive Reflux Disease:NERD〔ナード〕)といわれます。
検査
当科では、食道裂孔ヘルニアの状態を調べるために、次のような検査を行います。
①バリウム検査
②内視鏡(胃カメラ)
③CT
※大きなヘルニアの場合は、通常の「胸部レントゲン写真」でも診断が可能です。
治療
①逆流を起こしにくいような生活習慣、食生活を心がける
②胃酸を抑える薬(制酸剤・アルギン酸、プロトンポンプ阻害薬、H2ブロッカーなど)
③手術を考慮(GERDの原因が食道裂孔ヘルニアである場合)
手術
当科では腹腔鏡による食道裂孔ヘルニア修復術を行っています。
①胸に飛び出した胃をお腹に引き戻す
②緩んだ食道裂孔を補強(糸で縫い閉じたり、メッシュと呼ばれるシートを用いたりするなど)
③胃の入り口付近に襟巻のように胃の壁を巻き付け、逆流を予防
時代に応じた、専門性の高い手術・治療を行います
私たちは、上部消化管(主に食道と胃)疾患の外科治療を中心に、1)治る手術、2)安全な手術、3)負担の少ない手術 をモットーとして診療を行っています。
手術の進歩は日進月歩。今や食道がんも胃がんも、より専門性の高い施設で治療を受ける時代です。
当科では大学病院の使命として最先端の手術をご提供するのはもちろん、いろいろな併存疾患をもったリスクの高い方の手術もお引き受けしています。
また、肥満や糖尿病、社会の高齢化に伴い今後増加が予想される食道胃逆流症など、がん以外の疾患に対する外科治療も行っています。
篠原 尚(しのはら ひさし)診療部長