疾患概要
腋窩多汗症は、ワキの下から過剰な量の汗が出てしまう状態で、特に体温が上昇したり精神的に緊張した状態ではこの症状が顕著となります。腋窩多汗症は腋臭症、いわゆるワキガの原因となります。原発性腋窩多汗症は、ホルモンや神経の異常など、何らかの原因があって汗が出る続発性腋窩多汗症とは異なり、原因となる病気がないのに起こる状態をいいます。
これらは優性遺伝し、親子ともに現れることが多いですが、その頻度は日本人で約10%にすぎません。多くは思春期以降に発症します。臭いや汗が気になり人前に出られない、仕事に集中出来ないなど、日常生活や社会生活に支障をきたすケースもあります。
原因・症状
皮膚にある汗を分泌する器官である汗腺には、エクリン腺とアポクリン腺があり、エクリン腺は全身に分布し、アポクリン腺は腋窩(ワキ)、乳輪、外陰部などに分布しています。汗腺から分泌された汗は無臭ですが、アポクリン腺から分泌された汗に含まれる脂肪酸という成分が皮膚に存在する常在菌により分解され、体臭となります。
夏季、運動時、不潔時などに症状が著明となります。
※参考:富田靖監修(2013).標準皮膚科学(第10版).東京:医学書院.
検査
原因不明の過剰な局所性発汗が6か月以上持続していることに加え、以下の6項目中2項目以上を満たす場合に本疾患と診断します。
1)最初に症状が出たのが25歳以下であること
2)対称性に発汗がみられること
3)睡眠中は発汗が止まっていること
4)1週間に1回以上多汗のエピソードがある
5)家族歴がある
6)それらによって日常生活に支障を来たす
(原発性局所多汗症診療ガイドライン2015年改訂版より)
治療
①外用療法
簡便で侵襲も少ないことから塩化アルミニウムローションの塗布が第1選択となります。1日1回~数回程度腋窩に塗布します。
副作用としては薬剤による皮膚炎がありますが、間隔を伸ばしたり、ステロイド軟膏投与などで炎症を緩和しながら継続することが可能な場合もあります。保険適応外です。
②ボトックス注射
外用療法では効果が不十分な場合にはボツリヌス毒素の注射を行います。
ボツリヌス毒素が神経と汗腺の接合部における伝達を阻害することで、発汗を抑制します。
効果は4~6か月程度なので、夏のみ多汗が気になる場合には1年に1回、通年症状が強い場合には1年に2回注射を行います。注射前に冷却し、疼痛を軽減しますが、片方のワキで注射を20回ほど行うため、疼痛があります。日常生活に頻繁に支障があるような重症多汗症の場合には、保険適応となります。
③手術
皮膚の下のアポクリン腺を切除する方法です。皮膚を1か所か2か所、4~5cmほど切開し、皮膚をめくり上げ、ハサミを用いてアポクリン腺を取り除きます。アポクリン腺が残っていると再発する可能性があります。また、めくり上げてアポクリン腺を取り除いた部分の皮膚は血の巡りが悪くなり、腐ってしまうことがあるため、しばらくはガーゼなどで圧迫し、運動を制限する必要があります。
形成外科は、機能回復とQOLの向上を目的とする専門外科です。
形成外科は、主に体の表面のケガや変形、できもの、アザなどを治す診療科です。"傷を丁寧に縫合してきれいに治す""顔や手の骨折を元に戻す""皮膚の表面の腫瘍を取る""アザやシミを消す"などの役割があります。
顔(瞼(まぶた)、鼻、唇、耳)、手足、胸、腹、背中…どの部分も治療の対象です、もちろん、生まれつきの変形も含まれます。
形成外科の治療は手術が主体ですが、レーザー照射や注射、塗り薬や貼り薬、飲み薬も使います。
頭のてっぺんから足の先まで、お困りのことはご相談ください。
垣淵 正男(かきぶち まさお)診療部長