珍しい腫瘍ではあるものの、患者さんの数が年々増加し続けている中皮腫(ちゅうひしゅ)。
腫瘍が発生する場所によって「悪性胸膜中皮腫」「悪性腹膜中皮腫」などに分類されます。

「中皮腫」って、どんな病気?

「中皮」にできる腫瘍

肺や胃腸、肝臓、心臓などの臓器は薄い膜に包まれており、この膜の表面にある中皮細胞に発生した悪性腫瘍が「中皮腫」です。

発生する部位によって、
悪性胸膜中皮腫(80-85%)
悪性腹膜中皮腫(10-15%)
その他(1%以下)
に分けられます。
※( )内の数字は中皮腫におけるおおよその割合

原因はアスベスト

かつてさまざまな用途で使われていたアスベスト(石綿)が、ほとんどの中皮腫の発生に関与しています。

潜伏期間が長い

アスベスト曝露後20〜50年という年月を経て発症するため、患者数は今後も増加すると考えられます。

中皮腫治療の拠点として
すべてに全力を尽くしています

アスベストの使用はすでに禁止されているとはいえ、潜伏期を考慮すると2030〜35年頃まで患者数の増加が続くと予想されます。中皮腫の治療について、呼吸器外科の先生に聞きました。

呼吸器外科 主任教授/中皮腫センター長 長谷川 誠紀 

検診で胸水が見つかったら早めに呼吸器専門医へ

研究や治療に関する情報の発信にも取り組んでいます

中皮腫では息苦しさや咳といった症状が出ますが、長い潜伏期間に症状はまったくありません。数十年という非常に長い潜伏期間を経て細胞ががん化すると、以降は進行が速いのが中皮腫の特徴です。中皮腫の診断にはCTなどの画像検査や血液検査、胸水や腹水を採取して調べる細胞診などを用います。もっとも多い悪性胸膜中皮腫の場合は、一般的な胸部X線検査でたまっている胸水が発見され、各種の検査を経て診断につながることも。定期検診を受けること、異常があれば専門医を受診することが重要です。

治療の際には病気の進行度合い、肺や心臓の機能、患者さんの年齢等を考慮します。主軸となるのは抗がん剤による化学療法で、放射線療法を行うこともあります。悪性胸膜中皮腫においては、外科的に腫瘍を完全に切除できると見込めれば手術を行うこともあります。以前は、片肺を胸膜ごと切除する胸膜肺全摘術が行われていましたが、近年世界的に、胸膜だけを取って肺を残す胸膜切除/肺剥皮術に切り替わってきています。

兵庫医科大学病院では長年、中皮腫の研究・診療に積極的に取り組んでおり、中皮腫をはじめとするアスベスト関連疾患を専門的に扱う拠点として「中皮腫センター」を設置しています。呼吸器内科、呼吸器外科をはじめ他科とも連携して診療にあたっており、悪性胸膜中皮腫の患者さんも診ております。また、当院には「日本石綿・中皮腫学会」の事務局があり、患者さんおよびご家族同士の交流や情報の共有を目的に、院内で定期的に「中皮腫サロン」を開催しています。

中皮腫に限らず、治療の際には患者さんが納得して自ら治療方針を選択することがなにより大切。病状や治療法などを理解していただきやすいように工夫しながら、時間をかけて丁寧にご説明することを心がけています。