疾患概要
頸部腫脹とは、主に頸部に腫れがみられる症状の総称です。代表的な疾患には、頸部リンパ節腫脹や唾液腺腫瘍、頸部嚢胞(のうほう)、甲状腺腫瘍などが挙げられます。
頸部リンパ節腫脹
頸部リンパ節腫脹は、口腔(舌や歯肉など)や咽頭などの炎症により反応性に腫脹しているものと、悪性疾患によるものがあります。炎症によるものは、急性扁桃炎や咽頭炎などの急性炎症やリンパ節自体の炎症が原因となるリンパ節炎やEBウイルスなどの感染によるものがあり、原因はさまざまです。
唾液腺腫瘍
唾液腺腫瘍は、耳下腺、顎下腺、舌下腺や小唾液腺などの臓器に形成される腫瘍のことです。良性腫瘍と悪性腫瘍が存在し、80~90%は耳下腺や顎下腺腫瘍といわれています。
頸部嚢胞
頸部嚢胞は、頸部の正中にできる正中頸嚢胞、胸鎖乳突筋の近傍の側頸部にできる側頸嚢胞があります。
甲状腺腫瘍
甲状腺腫瘍は、前頸部の気管の表層側に存在する甲状腺にできる腫瘍のことで、良性腫瘍や悪性腫瘍が存在します。
原因・症状
頸部リンパ節腫脹
上記のとおり、炎症によるものと、悪性疾患によるものがあります。
炎症によるものは急性扁桃炎や咽頭炎などの急性炎症やリンパ節自体の炎症が原因となるリンパ節炎やEBウイルスなどの感染によるものがあり、原因はさまざまです。咽頭炎などの場合は、咽頭痛や発熱などの上気道症状を併発します。リンパ節炎の場合は、上気道炎などを来した後にリンパ節腫脹や圧痛を来たすとされています。EBウイルス感染(伝染性単核球症)では、発熱や咽頭痛や肝脾腫による腹部膨満感など複数の症状を併発します。
次に、悪性疾患によるものでは、口腔や鼻・副鼻腔、咽頭、喉頭、食道、甲状腺など頭頸部にできた悪性疾患(がん)からのリンパ節転移や血液疾患でもある悪性リンパ腫があります。飲酒や喫煙、歯牙などによる慢性的な刺激が発がんリスクとされていますが、最近ではEBウイルスやヒトパピローマウイルスの関連も判明してきており、それら悪性疾患の進行に伴います。症状は原発巣の部位により異なります。
唾液腺腫瘍
割合の多い耳下腺腫瘍の原因は不明ではありますが、良性腫瘍であるワルチン腫瘍では喫煙が関与しているといわれています。良性腫瘍では、頸部腫脹以外に症状はないとされていますが、悪性腫瘍の場合は、進行すれば顔面神経麻痺などの症状を併発します。
頸部嚢胞
正中頸嚢胞や側頸嚢胞は、胎生期に様々な臓器ができる過程で生じます。症状は頸部腫脹のほか、感染を来した場合に疼痛や発赤を伴います。
甲状腺腫瘍
甲状腺腫瘍の原因は不明ですが、症状は良性腫瘍の場合は頸部腫脹のみで、悪性腫瘍の場合は進行すると反回神経麻痺を来たし、嗄声(させい:声がれのこと)を併発します。
検査
診察での視診や触診、ファイバースコープによる観察、採血により炎症の有無を調べる必要があります。次に、画像検査(CTやMRI、エコーなど)を行い、腫脹を来している部位(リンパ節や腫瘍の位置など)や、腫脹している数、他の部位は無いかなどを確認する必要があります。また、リンパ節性状を確認するために、穿刺(せんし)吸引細胞診を施行し、病理学的に細胞の特性や悪性の有無など確認します。
治療
頸部リンパ節腫脹
炎症によるものに対しては、消炎治療として抗菌薬や消炎剤の治療(内服や点滴)を行いますが、急性炎症を抑えるためにステロイドを短期間使用することがあります。また、慢性扁桃炎など年に複数回扁桃炎を繰り返す場合には扁桃摘出術を行います。
悪性疾患の場合は、各々の悪性疾患のガイドラインに基づき治療を勧めます。
頸部嚢胞
まずは、炎症を抑えるために抗生剤などによる消炎治療を行います。その後も炎症を繰り返す場合や容姿の問題などがある場合は、手術にて摘出しています。
唾液腺腫瘍
良性腫瘍であれば経過観察となることもありますが、腫瘍の増大を来たす場合や、悪性の診断(多型腺腫は数%悪性化する可能性もあり)の場合は、手術による摘出が必要となります。悪性リンパ節の場合は、血液内科での化学療法が必要となります。
甲状腺腫瘍
良性腫瘍であれば基本的には経過観察となりますが、一定の大きさを超えた症例に関しては摘出を勧めます。悪性の場合は、手術での摘出が必要となり、切除範囲は進行度によって異なります。

分野ごとに専門的な診療を行っています
聴覚・平衡覚・嗅覚・味覚などの感覚医学、頭頸部腫瘍の診療を行っています。鼓室形成術、人工内耳埋め込み手術、めまいの検査と治療、顔面神経麻痺、内視鏡下副鼻腔手術、手術用ナビゲ-ションシステムの応用、嗅覚・味覚専門外来、幼児難聴、補聴器外来、頭頸部がんに対する集学的治療を行っています。
都築 建三(つづき けんぞう)診療部長