疾患概要
日本聴覚医学会は、聴力レベルが70dB以上は「高度難聴」、90dB以上は「重度難聴」と定義しています。
なかでも、補聴器を使用してもほどんと聞きとることができない難聴に対し、唯一の聴覚獲得方法とされているのが人工内耳埋め込み手術です。
人工内耳は体内に埋め込む体内装置(インプラント)と、磁石で体表面にくっつける体外装置(サウンドプロセッサ)から構成されており、手術でインプラントの電極を内耳の蝸牛へ挿入します。聞こえ方の仕組みとしては、サウンドプロセッサのマイクから集音された音がデジタル信号に変換され、送信コイルを通じて皮下に埋め込まれたインプラントへ送られます。インプラントで電気信号に変換され、電極を介して蝸牛へ送られた信号が音として認識されます。
世界中で広く普及しており、日本でも1985年に初めて人工内耳埋め込み手術が行われてから、1万件以上の手術が行われており、現在では年間1000例超の手術が日本で行われています。
手術の適応条件
大人になってから聞こえを失った場合や、生まれつき耳がほとんど聞こえない先天性重度難聴などが手術の適応となります。その中でも、補聴器を使用しても会話が困難であり、決められた程度より進んだ難聴である場合、人工内耳埋め込み手術の適応となります。
ただし、両耳とも聞こえが悪いことが条件となるため、片側の聴力が良い場合、現在日本では埋め込み術の適応となりません。
検査
標準純音聴力検査や、語音聴力検査、ABR(聴性脳幹反射)、ASSR(聴性定常反応検査)などで難聴の程度を評価し、人工内耳埋め込み手術の適応かを判断します。CTやMRIで中耳・内耳などの形態評価を行い、手術が可能かなどの判断を行います。
治療
手術にてインプラント本体を皮下に埋め込み、電極を蝸牛に留置します。インプラントは体内に埋め込まれ露出していないため、サウンドプロセッサをつけていない状態では、人工内耳を入れているか、外見上ほぼ分かりません。人工内耳埋め込み手術終了直後には、手術室でレントゲン撮影を行い、人工内耳が正しい位置で埋め込まれているか確認を行います。
人工内耳の有効性には個人差があり、手術直後から完全に聞こえるわけではありません。手術後、リハビリテーションを行う必要があり、継続する根気や意欲、家族の支援なども必要です。
その他
インプラントには磁石が埋め込まれており、以前は人工内耳埋め込み後のMRIは禁忌とされていました。しかし、最新のインプラントは特殊な磁石を使用しており、3.0テスラという強さ以下のMRIであれば、そのまま受けることができるようになっています。当科でもMRI可能なインプラントを導入しています。
分野ごとに専門的な診療を行っています
聴覚・平衡覚・嗅覚・味覚などの感覚医学、頭頸部腫瘍の診療を行っています。鼓室形成術、人工内耳埋め込み手術、めまいの検査と治療、顔面神経麻痺、内視鏡下副鼻腔手術、手術用ナビゲ-ションシステムの応用、嗅覚・味覚専門外来、幼児難聴、補聴器外来、頭頸部がんに対する集学的治療を行っています。
都築 建三(つづき けんぞう)診療部長