疾患概要
鼓膜の奥には耳小骨という3つの小さな骨があり、外から音が入ると、鼓膜とともに耳小骨が振動することで脳に音を伝えています。
耳硬化症は、耳小骨の中で一番奥にあるアブミ骨が徐々に動きにくくなることで進行性の難聴を引き起こす原因不明の病気です。
欧米の白人に多い病気とされていますが、日本人の耳硬化症も決して珍しくはありません。女性に多く、妊娠・出産をきっかけに進行する方も多くおられますが、男性の患者さんもおられます。
症状は軽症の方から重症になる方までさまざまで、両側性に発生することも多いです。
日本人は高度に進行する耳硬化症(far-advenced otosclerosis)は少ないとされていますが、作曲家のベートーベンは耳硬化症によって聴力を失ったともいわれています。
耳硬化症は、正確な診断がされずに補聴器等で対応されていることもありますので、気になる方はご相談ください。
原因・症状
通常は思春期以降に発症し、徐々に進行する難聴や耳鳴りを特徴としますが、稀にめまいを伴う患者さんもおられます。
耳硬化症の発症初期は、軽度~中程度難聴から始まりますが、長期にわたって放置すると高度難聴になってしまう場合もあります。
耳硬化症は男女差や人種によって病気の頻度が大きく異なることから、遺伝子の要因や女性ホルモンの関与も考えられてはいますが、はっきりとした原因は未だ不明です。
検査
耳硬化症は、ほとんどの場合で鼓膜に異常な所見はありませんが、音の伝導効率が低下しますので、聴力検査では低音部を中心とする特徴的な伝音難聴の所見を認めます。診断に最も重要な検査はアブミ骨筋反射であり、耳硬化症が進行するとこの検査の反応が消失します。
高度進行性の耳硬化症(far-advenced otosclerosis)になると、内耳の骨が変性して、CT検査で海綿状変性の所見を認める場合もありますが、中等症以下の耳硬化症でこちらの所見をみとめることは少ないです(図1)。
治療
根治治療は手術加療のみとなります。手術はアブミ骨手術という方法で行います。アブミ骨は人体中で最小の骨であり、耳科手術の中でも最も繊細な手術とされています。
原則として入院で全身麻酔下に手術を行います。アブミ骨の固着を確認し、耳硬化症で間違いなければ、アブミ骨の上部構造を切除して底板に1㎜以下の小さな穴を開け、太さ0.6㎜、長さ4.0~4.5㎜のテフロン製ピストンを挿入します。そうすることで鼓膜の動きをピストンを介して内耳に伝えるようにします(図2)。
聴力の改善率は約90%と高いですが、内耳を開窓するために、術後にめまいを起こすことがあり、約1%の確率で聴力が高度に低下する危険性があります。
当科では、この確率をできるだけ低くするために炭酸ガスレーザーを用いたアブミ骨手術を第一選択としています。年間20~30例のアブミ骨手術を行っており、西日本各地から患者さんが紹介されてきます。
分野ごとに専門的な診療を行っています
聴覚・平衡覚・嗅覚・味覚などの感覚医学、頭頸部腫瘍の診療を行っています。鼓室形成術、人工内耳埋め込み手術、めまいの検査と治療、顔面神経麻痺、内視鏡下副鼻腔手術、手術用ナビゲ-ションシステムの応用、嗅覚・味覚専門外来、幼児難聴、補聴器外来、頭頸部がんに対する集学的治療を行っています。
都築 建三(つづき けんぞう)診療部長