疾患概要
「年齢とともに背中が曲がってきた」「腰の痛みが強くて家事が辛い」など、成人脊柱変形とは年齢とともに背骨の変形が進み、日常生活に支障をきたす疾患です。正面からみた背骨の曲がりを側弯症（そくわんしょう）、横からみた背骨の曲がりを後弯症（こうわんしょう）と呼びます。
特に中年以上の女性に多く、背骨の骨折を契機に腰曲がりが進行することもあります。今までは「歳のせい」という理由で治療対象ではなかったこの病態ですが、現在では病態の解明が進み、また脊椎手術の進歩により治療可能となっています。超高齢化社会の現在、治療を必要とする成人脊柱変形の患者さんは増えています。
原因・症状
年齢とともに背骨を構成している骨や、骨と骨の間にあるクッションの役割をする椎間板がいたみ、背骨が徐々に変形します。また、筋力の低下や骨のもろさ（骨粗鬆症）由来の背骨の骨折が加わると変形はさらに悪化します。
体のバランスの悪化によりまっすぐ立つことが困難となり、家事の途中で何度も休憩をしなければならなかったり、台所仕事はひじをつかないとできなくなります。そのためひじが黒ずんだり、ひじの皮膚が分厚くなったりすることがあります（キッチンエルボーサイン）。腰曲がりは食べ物が通りにくくなり胸やけが起こるなど、逆流性食道炎の原因となることもあります。活動量の低下は筋力や心肺機能の低下、免疫力の低下を引き起こします。
検査
成人脊柱変形を疑う場合は、背骨全体のレントゲン写真を撮影します。正面からと側面からの2方向で背骨の配列をチェックし、様々なパラメータを測定し症状の原因を調べます。腰痛だけでなく下肢の痛みなどの神経症状を伴っている場合は、神経が圧迫されていないかをMRI検査で調べます。
また、神経根ブロックや椎間関節ブロックなどの各種ブロック注射では、下肢痛や腰痛の原因となっている部位をつきとめます。成人脊柱変形の患者さんは骨粗鬆症であることが多く、骨密度検査を行っています。手術が決まればミエログラフィー検査と呼ばれる精密検査を入院で行います。これは造影剤を神経の通り道に注入し、レントゲンやCT撮影を行うものであり、手術の方針を決定します。
治療
症状が軽度の場合は筋力トレーニングなどの運動療法や薬物療法、ブロック治療を行うことで改善する場合がありますが、背骨の変形が高度であれば多くの場合が無効です。このような患者さんに対して、当院では「脊柱変形矯正手術」と呼ばれる曲がった背骨を正常な形に戻す手術を行っています。
腰の骨と骨の間にある椎間板にケージと呼ばれるインプラントを挿入し、さらにスクリューによる固定術を行います。手術中に脊髄が正常に機能しているかどうかをチェックする神経モニタリング装置で確認しながら矯正を行います。当院にはX線透視装置と手術台を組み合わせたハイブリッド手術室があり、手術中にCT検査を行うことができます。このような高度医療技術を用いることで安全で低侵襲な手術が可能です。
その他
「歳によるものだから仕方がない」と言われたことはありませんか？ 諦めていた腰の痛みや曲がりも治る可能性があります。当院整形外科では毎週月曜日・金曜日に脊椎専門外来を行っています。背骨の曲がりや腰の痛みでお困りの方はお気軽にご相談ください。
整形外科は運動器、全身の自分で動かせる部位の頭部以外の首から下の背骨や四肢を専門としております
運動器の障害、運動器疾患は外傷、怪我による骨折や脊椎脊髄損傷、特発性側弯症などの小児の疾患、加齢性の変性に伴う腰椎椎間板ヘルニアや成人脊柱変形、変形性関節症、関節リウマチなどの炎症性疾患、化膿性脊椎炎や結核などの感染症、骨肉腫などの骨腫瘍や軟部腫瘍など背骨から四肢の関節、骨、靭帯、筋肉、神経に到るまでたくさんあります。
運動器の障害は患者さんの活動性、生活の質に直結します。
我々はそれらの疾患を理解し薬物治療や運動療法などの保存治療から手術まで専門的な治療を行います。
当科では脊椎班、上肢班、関節班（股、膝スポーツ、膝人工関節、足、骨粗鬆症）、腫瘍班が整形外科の全ての専門分野を網羅し、それぞれのスタッフが先進の医療をめざして努力しております。
橘 俊哉（たちばな としや）主任教授/診療部長
