疾患概要
摂取した食物が原因となり免疫学的機序(体を守る働きを免疫と言います)を介してじん麻疹・湿疹・下痢・咳・喘鳴(ゼーゼー)などの症状が起こることを食物アレルギーといいます。
アレルギーは「過敏症」とも言われますが、免疫反応の一つであり体が異物を排出する一つのメカニズムです。人がアレルギーを起こすものは人間以外の動植物由来のタンパク質がほとんどになります。食物アレルギーは免疫学的機序を介していることが重要で、食物そのものの作用によるものは食物アレルギーには含めません。
たとえば、乳糖を体質的に分解できずに下痢を起こす乳糖不耐症という病気では、乳糖を含む食物を食べるとあたかも牛乳アレルギーのように下痢を起こしますが、この場合は食物アレルギーとは言わず食物不耐症といいます。食物は我々が生きていくために必須ですが、個人個人の体質により食物によって体に不利益な反応が起きることもあるのです。
原因・症状
免疫学的機序は大きく分けると二つに分類されます。一つは即時型アレルギー反応といい免疫グロブリンE(lgE抗体:石坂公成・照子夫婦が1966年に発見)という生体内のタンパク質を介して起こるものです。食物アレルギーの多くはこのタイプです。lgE抗体が皮膚・腸粘膜・気管支粘膜・鼻粘膜・結膜などにいるマスト細胞に結合した状態で食物抗原と出会うことにより、マスト細胞から化学伝達物質(ヒスタミン、ロイコトリエンなど)が放出されアレルギー反応(じん麻疹・湿疹・下痢・咳・喘鳴など)が誘発されるのです。
即時型の場合は食物を摂取した直後から2時間以内ぐらいにアレルギー反応を認めることがほとんどです。もう一つはlgE抗体を介さない非即時型(あるいは遅発型、遅延型)反応です。この詳細なメカニズムはまだ解明されていません。即時型と異なり、食物を摂取してから数時間後に湿疹・掻痒などの皮膚症状が主に認められます。
検査
自己診断されていることが多く、思いこみや間違いである場合もあります。
食物アレルギーの診断は熟練したアレルギー専門医でも大変難しいです。まず、患者さんには詳細な生活歴、家族歴、アレルギー病歴(各症状と食物との因果関係など)を伺います。病歴から高い確率で食物アレルギーの関与が推察できます。問診から食物アレルギーが疑われる場合は、スクリーニングとして総lgE、lgE CAP-RASTなどの血液検査、プリックテストなどの皮膚テストを行い、診断確定に近づけていきます。それらの検査でアレルギーが疑われる場合は入院のうえ食物負荷試験(運動誘発試験含む)を行い診断を確定していきます。
既に食物アレルギーと診断されている患者さんでは、原因アレルゲンの摂取を控えると成長に伴いアレルゲンに対して耐性(食べてもアレルギーが起こらない)ができることがあります(主に小児期に診断され食物除去を行ってきた若年の患者さん)。その際もどこまで原因食物を摂取できるかの検査を入院で行うことができます。
治療
日常生活でのポイントは、正しい診断に基づき必要最小限の食物除去とすることに尽きます。さらに、食物除去に際して、栄養と食事の質の面から除去した食物に代わる代用食品を必ず指導することです。薬物療法としては、抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬が補助的に用いられます。即時型食物アレルギーの症状は食後2時間以内に出現することがほとんどです。
どの程度アレルゲンを摂取したか、アナフィラキシーの既往があるかなどによるものの、皮膚症状・消化器症状にとどまる場合は経過観察あるいは抗ヒスタミン薬投与ですむことが多いのですが、咳・喘鳴など呼吸器症状を呈した場合は1/3の症例でショックに至るので、咳・喘鳴があれば緊急に医療機関を受診すべきです。
アナフィラキシーの場合、最も効果的な治療は0.1%アドレナリンの筋肉注射です。アナフィラキシーの既往がある患者さんでは、エピペンⓇという携帯用のアドレナリン自己注射セットを活用することもあります。
メッセージ
当科では上記のような食物アレルギーに関して検査・治療を行っております(小児の患者さんは、恐れ入りますが小児科にお問い合わせください)。食物アレルギーでお困りの方、またアレルギーかどうか悩んでいらっしゃる方もお気軽にお尋ねください。
進化は止まらない 「できない」が「できる」に
当科は、リウマチ・膠原病などの全身性自己免疫疾患とアレルギー疾患を専門としています。近年、これらの疾患に対する診断技術の進歩と新規治療薬の開発は目覚ましく、「分からなかったことが分かる」ようになり、「できなかったことができる」ようになって来ています。我々は科学的根拠に基づき、より早期に診断し、病状、合併症、社会的背景などを考慮した個々の患者さんにとって最適の治療方針を提供することを目指しています。
東 直人(あずま なおと)診療部長