疾患概要
歯肉や顎骨内に生じた腫瘍の切除、顎骨骨髄炎の手術や外傷による欠損、先天的な顎骨の形態異常などによって広範囲にわたり咬合(こうごう)を失ってしまった状態を総称して「顎欠損」と呼びます。現代社会では高齢化が進み、顎口腔領域においても、特に悪性腫瘍や顎骨骨髄炎などが原因で歯や顎骨を失ってしまい、いわゆる「顎欠損」とされる状態になってしまう患者さんが徐々に増加傾向にあります。
原因・症状
歯肉がんを代表とした腫瘍性病変や顎骨骨髄炎に対する顎骨の切除手術や、交通外傷などで多数歯の喪失、唇顎口蓋裂のような先天性疾患による顎骨の形態異常などが原因で「顎欠損」と呼ばれる状態が生じます。このような状態では、当然咀嚼機能の低下が生じてしまい、また審美的な面においても障害が生じ、患者様のQOL(生活の質)を著しく低下させる要因となってしまいます。また、結果として残存している歯にも大きな負担が生じてしまい、さらに歯を失ってしまう原因にもなりかねません。
検査
残存している顎骨や歯の状態を歯列模型、パノラマX線検査やCT検査を用いて評価します。 骨移植などを行った場合には、移植骨の癒合状態や形態についても同様に検査して評価します。また、必要に応じて舌圧や咬合力、咀嚼機能、嚥下機能など、総合的に口腔の機能を評価することで、治療前後でどこがどのように改善したかをわかりやすく検証していくことができます。
治療
従来、このような顎欠損が生じ広範囲にわたり咬み合わせを喪失してしまった場合には、保険治療では義歯で補うしか方法がありませんでしたが、義歯の維持・安定が不良で装着が困難な場合がほとんどでした。しかし、2012年よりこのような顎欠損に対しインプラントを用いて喪失した咬み合わせを回復させる治療が保険収載され、当科でも積極的に取り入れています。
保険収載される以前は先進医療に該当する治療でしたが、当科はその当時からこの治療方法を導入しています。例えば、歯肉がんなどで顎骨を広範囲に切除せざるを得ない場合、形成外科医と連携して、まず欠損した部分を足の骨(腓骨)などを用いて顎骨の連続性を再建する治療を行い、その後に移植した骨にインプラントを埋入することで、最終的に喪失した咬合を回復させることができます。症例に応じて、インプラントを埋入した部分に着脱可能な義歯もしくは固定されるブリッジタイプを選択し、患者さんの状態により適した方法での咬合回復をめざしていきます。
その他
う蝕や歯周病などで欠損してしまった部分に埋入する通常のインプラント治療は保険適用外となります。
かかりつけ歯科と連携し、専門的な口腔治療を行っています
口腔は、食べる、会話するなど、楽しく生きていくうえで極めて重要な機能を担っていますので、口腔に疾患を生じると非常に苦痛です。
当科では、患者さんのかかりつけ歯科と連携し、むし歯や歯周病、親知らずなどの治療(主に抜歯。一般歯科診療はかかりつけ歯科でお願いしています)と、口腔粘膜(舌や頬、歯肉など)に生じる疾患の診断と専門的治療を行っています。手術などの治療の内容によっては、入院が必要な場合もあります。口腔の面から患者さんをサポートします。
岸本 裕充(きしもと ひろみつ)診療部長