疾患概要
肝臓は右側肋骨の内側にあり重さも1kg以上で、脳と並んで人体で最大の臓器です。体に必要なタンパク質の工場、栄養の倉庫、体とって不要ないしは有害な物質の処理、そして食べ物の消化に必要な消化液(胆汁)の産生、と多くの役割を担っている重要な臓器です。様々な原因で肝臓の働きが低下し硬くなることがあり、それを肝硬変といいます。軽い肝硬変で留まれば、日常生活に問題がない(代償性肝硬変)ことも多いのです。
しかし、肝硬変が進んで「非代償性肝硬変」という状態になると、腹水が溜まってお腹が張ったり、食道静脈瘤が破裂して血を吐いたりして、命に関わることがあります。そして、それ以外に肝硬変の患者さんの命を奪いかねない病気、「肝がん」へと進むこともあります。「肝がん」は「肝細胞癌」と「肝内胆管癌」に分類されますが、ここでは、そのほとんどを占める「肝細胞癌」についてご説明します。グラフは、年齢毎に患者さんの数を示していますが、若い人にはほとんど見られない病気です。
原因・症状
肝細胞癌は、「なりやすい人」がはっきりしている病気です。今までは、B型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルスが原因で起きる肝細胞癌が多かったのですが、肝炎ウィルスの治療法が進歩したため、今後、減っていくと考えられています。代わって、お酒呑みに起こることがある「アルコール性肝炎/肝硬変」や、肝臓に脂肪が貯まってフォアグラ状態となっている人の一部分がなるとされる「NASH(ナッシュ、非アルコール性脂肪性肝炎)」から起こる肝細胞癌が増えていくと予想されています。
肝細胞癌ができただけでは、症状はありません。肝炎ウイルスの治療をした人、治療をしている人、お酒や脂肪肝で肝臓が悪くなっている方が、定期的に検査を受けていただくことで、早期発見、治療に繋がるのです。
検査
診断のためには、採血検査と画像診断が重要です。採血では、肝臓の働き具合をチェックし、肝細胞癌があると上昇することが多い腫瘍マーカーを測定します。画像診断には、超音波エコー、CT、MRIなどがあり、腫瘍の大きさ、肝臓の中の血管との位置関係を確認します。それらを総合的に判断して、各々の患者さんに適した治療法を提案することになります。兵庫医大では、消化器外科、消化器内科、放射線科の医師が週に1回集まり、各々の患者さんに一番良いと思われる治療法を検討しています。
癌の個数が一つと確認できれば、外科手術で切り取るのが一番良い、ことがわかっており、消化器外科で担当します。そうでない場合は、手術に加えて、エコーで確認しながらラジオ波で焼灼したり、血管からカテーテルを挿入し腫瘍に薬を注入したり、内服や点滴の薬使う、といったことを検討していきます。CT検査の生のデータと検討用に三次元化した画像を示します。
治療
手術には2通りの方法があり、開腹で行う場合と、腹腔鏡で行う場合があります。腫瘍が大きい場合や今までに手術を受けておられる方には開腹手術を行いますが、図で示すように大きな傷が必要になります。それ以外の患者さんでは腹腔鏡を用いて肝切除を行い、患者さんの負担を減らすようにしています。
また、肝臓は、手術で切り分ける目印に乏しい臓器ですが、当院では世界に先駆けて、MIPS(Medical Imaging Projection System)を開発、導入しています。写真で示すように、切り分ける境界が一目瞭然となり、患者さんに優しい手術が可能となっています。手術3〜4日前に入院、術後1〜4週間で退院というのが一般的な流れとなります。肝細胞癌を切除した後も、癌ができやすい肝硬変は続いていますので、内科とともに、再発がないかどうかをしっかり経過観察していくこととなります。
肝臓、膵臓、胆道領域の腫瘍など高難度手術から、胆石や鼠径ヘルニアなどの鏡視下低侵襲手術まで幅広く診療しています。
肝・胆・膵外科は開院以来、第1外科時代を経て45年の歴史を有し、肝胆膵高難度手術や内視鏡外科などの低侵襲手術を駆使して、最新かつ安全な外科的治療を迅速に提供しております。
当院は、国内でも有数の肝胆膵領域の手術数を誇る施設であり、肝胆膵外科学会の高度技能医修練A施設に認定されています。
肝胆膵外科高度技能指導医や専門医、その他外科学会指導医や消化器外科学会指導医、日本内視鏡外科学会技術認定医など、多くの専門スタッフが手術・診療にあたっています。
廣野 誠子(ひろの せいこ)診療部長