疾患概要
心臓には4つの弁がありますが、そのなかで左心房と左心室の間にある弁を僧帽弁と呼びます。僧帽弁は前尖(ぜんせん)と後尖(こうせん)という2枚の弁で成り立っており、左心室が大動脈へ血液を送り出そうとするときにはしっかりと閉じることで、血液が左心房に逆流しないようにしています。僧帽弁閉鎖不全症は、この僧帽弁がうまく閉じなくなり、血液が左心室から左心房に逆流してしまう弁膜症です。
原因・症状
僧帽弁閉鎖不全症は心雑音で発見されることが多く、進行すると、息切れ、動悸、めまい、咳、足首の腫れ、尿量低下などの症状が出ます。重症の場合、従来は手術療法を選択するしかありませんでしたが、最近ではカテーテルによる治療(後述)が登場し、低侵襲(ていしんしゅう:からだへの負担が小さい)治療も選択できるようになりました。
検査
通常の心エコー検査(経胸壁心エコー図検査)、運動をしながら行う負荷エコー図検査、胃カメラのような管を飲み込んで行う経食道心エコー図検査によって、僧帽弁閉鎖不全症の原因や重症度などを評価します。
治療
僧帽弁閉鎖不全症のカテーテル治療:経皮的僧帽弁接合不全修復術
軽度から中等度の僧帽弁閉鎖不全症で自覚症状がない場合は、薬物療法で心臓の負担をとりながら、逆流が増えていかないかを心エコー検査で定期的に確認します。重症にまで進行した場合、外科手術が必要となります。外科手術には自己の僧帽弁を温存する僧帽弁形成術、人工弁に置き換える僧帽弁置換術が主な術式となり、人工心肺を使用して行われます。 これまで、外科手術が必要であるにも関わらず、年齢や併存症のためリスクが高いと判断された患者さんには根治療法(こんちりょうほう:病気を完全に治すことを目的に行う治療)がありませんでしたが、近年カテーテルの技術を用いた「経皮的僧帽弁接合不全修復術」という新たな治療ができるようになりました。この治療は、足の付け根の静脈からカテーテルを挿入し右心房から左心房を経て、「MitraClip®(マイトラクリップ)」という器具で僧帽弁をつかんで引き合わせることにより、逆流を減らす治療です。従来の外科手術よりも体にかかる負担が少なく、入院期間も短く済みます。経皮的僧帽弁接合不全修復術は、認定施設のみで施行できる手術であり、当院では心臓血管外科と協力し、2022年9月から実施しております。
その他
僧帽弁閉鎖不全症だけでなく、弁膜症の治療には「正しい診断と正しい評価」が大変重要です。心雑音を指摘されたり、息切れなどの症状が気になったりする場合は、循環器内科にお気軽にご相談ください。
経験豊富な専門医が、広範囲な心血管病の診療を行います
心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、下肢閉塞性動脈硬化症や深部静脈血栓症などの末梢動静脈疾患、心筋症や弁膜症などの心不全、心房細動や洞不全症候群などの不整脈をはじめ、広範囲な心血管病に対して各疾患領域に経験豊富な専門家が診療にあたっています。
阪神地区の中核機関として、地域の病院・医院等の先生方と密接な協力体制を構築していますので、かかりつけ医の先生よりご紹介いただければスムーズに受診いただけます。
石原 正治(いしはら まさはる)診療部長