疾患概要
小腸は胃と大腸の間に位置しており、部位によって胃に近い方から、十二指腸・空腸・回腸に分けられます。その全長は6mを超え、ヒトの体の中で最も長い臓器です。小腸は栄養素を吸収・輸送する働きをしています。小腸の粘膜には絨毛(じゅうもう)と呼ばれる突起が無数にあり、これによって表面積を大きくして吸収力を高めています。
小腸は胃カメラでも大腸カメラでも届かない位置にあり、また非常に長い臓器であることから、以前は検査を行うことが難しく、小腸にはあまり病気が起こらないものとされてきました。しかし現在では、下で説明しているように、カプセル内視鏡検査や小腸内視鏡検査など、様々な検査が登場したことで、小腸にも色々な疾患があることが分かってきました。
その中でも代表的なものとして、「小腸腫瘍」と「小腸出血」について説明します。
原因・症状
小腸腫瘍
小腸腫瘍は全消化管腫瘍の約3%程度といわれており、非常にまれな疾患です。明らかな原因については、これまではっきりとしていません。腫瘍細胞の組織によって様々な種類に分類されます。良性腫瘍としては脂肪腫や平滑筋腫など、悪性腫瘍としては腺がんや神経内分泌腫瘍などがあります。これらはいずれも早期の間は無症状であり、腫瘍が大きくなって腸が狭窄すると、腹痛や腹部膨満感、悪心・嘔吐といった症状が出てきます。また、腫瘍から出血して貧血が見られる場合もあります。
小腸出血
小腸出血は消化管出血全体の約4%程度といわれています。原因としては、毛細血管拡張や動静脈奇形などの血管性病変や、NSAIDs (非ステロイド性消炎鎮痛薬)という薬やその他の病気によって潰瘍が生じる炎症性病変、小腸腫瘍、小腸憩室などがあります。症状としては、出血する部位や出血量によって、黒色便や血便、貧血などが見られます。
検査
小腸の検査法としては、小腸に造影剤を流してX線撮影を行う小腸造影検査の他に、近年では「カプセル内視鏡検査」「ダブルバルーン内視鏡検査」が行われるようになりました。
カプセル内視鏡検査
カプセル内視鏡検査は、長さ26mm・直径11mm のカプセルを飲み込み、1秒間に2枚ずつ約8時間にわたって約5万5,000枚の画像を撮影します。患者さんの負担が少なく、被爆の心配もありませんが、病変を見つけるのみで処置を行うことはできません。また腸管に狭窄部位があればカプセルが停留してしまうリスクがあるため、そうした患者さんには施行できません。
提供:コヴィディエンジャパン株式会社
ダブルバルーン内視鏡検査
ダブルバルーン内視鏡検査は、口または肛門から内視鏡を挿入し、バルーンで腸管を短縮させながら、深部小腸を観察する検査です。直接観察しながら、組織の採取や出血に対する止血術、狭窄部に対するバルーン拡張術などの処置を行うことができますが、患者さんの負担は比較的大きい検査となります。
治療
小腸腫瘍
小腸腫瘍の治療方針は、その組織の種類によって異なります。良性腫瘍の場合、症状がなければ治療対象になりませんが、腫瘍が増大して腸管に狭窄をきたしたり出血を認めたりすれば、手術加療が検討されます。悪性腫瘍の場合、腫瘍の大きさや位置、全身への転移の有無によって、内視鏡的切除や手術加療、薬物療法などが行われます。
小腸出血
小腸出血の治療は、ダブルバルーン内視鏡を用いた内視鏡的止血術が第一選択になります。クリップをかける方法や血管を熱で凝固させる方法、粘膜に注射をして出血を止める方法などがあります。内視鏡での止血が困難な場合、画像下治療(IVR:Interventional Radiology) が検討されます。これは、カテーテルを用いて出血の原因となっている血管に直接治療を行う方法です。それでも止血が困難な場合には、手術加療を行うこともあります。
メッセージ
当院ではカプセル内視鏡検査やダブルバルーン内視鏡検査も積極的に行っており、小腸腫瘍や小腸出血の症例経験も豊富です。
お困りの際には、いつでも当科にご相談ください。
患者さんに安心して受診いただける、最善かつ最高の医療を
消化管内科は2022年7月に炎症性腸疾患内科と統合し、食道がん・胃がん・大腸がんなどの消化管腫瘍、クローン病・潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(IBD)、および機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群などの機能性消化管疾患をはじめとして、消化管疾患の全般にわたって診療しています。
当院は、国内でも有数のIBD診療数を誇る施設であるとともに、早期がん内視鏡治療のハイボリュームセンターでもあります。
最善かつ最高の医療を提供するベく日々努力するとともに、患者さんに安心して受診いただけるよう、エビデンスに基づきつつ一人ひとりの病状に応じた丁寧な診療を心がけています。
新﨑 信一郎 (しんざき しんいちろう)主任教授/診療部長