疾患概要
腎臓は血液を濾過して尿を作る臓器です。その他、血圧を保つホルモンや、赤血球をつくるホルモンも作り出しています。 腎臓は尿を作る部分(腎実質)と尿が流れる部分(腎盂)とに分かれますが、腎細胞がんは、腎実質から発生します。
原因・症状
腎がんは喫煙や肥満が原因とされています。約80%の腎がんが症状がなく、CTや超音波検査などの画像診断で偶然発見されます。このようながんを偶発がんと呼びますが、手術で完全に切除できれば比較的予後は良好です。 一方、血尿、腹部腫瘤、疼痛、発熱、貧血、食欲不振、体重減少などの症状が発生してから発見される腎細胞がんは、転移を伴う進行がんであることが多く、予後も悪いとされています。
検査
腎がんには明確な腫瘍マーカーというものは存在しません。ほとんどの腎がんが超音波検査、CT、MRIなどの画像で診断ができますが、良性腫瘍との鑑別が難しいこともあります。 画像での診断が困難な場合は腎生検(針で組織を採取して調べること)で診断をする場合があります。がんのサイズや進展によってⅠ期からⅣ期まで分けられます。数字が大きいほど進行しており、5年生存率も下がります。
治療
腎部分切除(がんの部分だけを切り取り、腎臓を温存する手術)の対象となりますが、それ以上大きながんでは、健常側(がんが無いほう)の腎臓が正常であれば、患側(がんが有るほう)の腎臓を摘出する必要があります。 当科では、腎摘除術、腎部分切除のいずれにおいても開放手術に比べて傷が小さくてすむ体腔鏡下手術を行っています。2014年からは内視鏡手術支援ロボット「ダビンチ」による腹腔鏡下腎部分切除術も開始しています。
<腎アブレーション治療(凍結治療・ラジオ波治療)>
当院では、凍結治療とラジオ波凝固治療の二種類のアブレーション治療を受けることができます。アブレーション治療とは、腫瘍に治療用針を直接差し入れて、熱したり急速に凍らしたりすることで治療する方法です。
凍結治療は、腫瘍を急速に凍らせて治療する方法で、保険診療で治療を受けることができます。凍結治療は、治療中の痛みがほとんどなく、治療中のCTで氷の塊(Ice-ball)を観察しながら、より正確に治療を行うことが可能です。ラジオ波凝固治療は、腫瘍を熱で治療する方法です。2021年7月時点では保険診療として認可されていませんが、出血等のリスクが高く、凍結治療が困難な患者さんに対して、自費診療での治療を行っています。
これらのアブレーション治療は、局所麻酔下に施行可能で体の負担が少なく、体の表面から針を刺して治療するので大きな傷が残らず、しかも腎機能を保ちながら治療ができるという利点があります。特に小型(4cm以下)の腎がんであれば、外科的治療と同じような治療成績が得られることが報告されています。
<転移巣に対する薬物療法>
肺や骨に転移があって切除が難しい場合には、免疫チェックポイント阻害薬を用いた複合免疫療法や分子標的薬による薬物療法を行います。また転移があっても原発巣を摘出することで予後が改善できることも報告されており、症例によっては薬物療法と手術療法を組み合わせて治療をします。
泌尿器科と放射線科は患者さんにとって、最もよい安全な治療方針を選択するために、常時綿密な連携をとっています。腎がんの基本は腫瘍摘出ですが、腎機能障害や合併症などで手術が困難な場合でも、別の選択肢としてラジオ波焼灼療法や凍結療法など局所麻酔による低侵襲治療を提示することができます。
当院では、腎がんを含め固形癌に対するアブレーション治療を積極的に行っており、国内有数の治療件数(※)があります。直近のデータからも手術と低侵襲治療がほぼ半数ずつになっております。
※2021年8月現在
出典:日本IVR学会サイト URL:https://www.jsir.or.jp/
多彩な腎泌尿器疾患に、確実で高度な先進的治療を提供します
泌尿器科は尿路(腎、尿管、膀胱、尿道)、副腎および男性⽣殖器(前⽴腺、精巣など)のさまざまな疾患を治療する科です。
兵庫医科大学病院 泌尿器科では、外科的アプローチと内科的アプローチを効率よく組み合わせた集学的治療によって、常に患者さんの⽣活の質(QOL:Quality of Life)の向上を意識した診療を⾏っています。
山本 新吾(やまもと しんご)診療部長