疾患概要
乳がんを切除した後、乳房の変形や欠損が生じますが、乳房の形態を取り戻す治療が乳房再建です。乳がん以外にも、熱傷や外傷、先天異常に対して乳房再建を行うこともあります。
乳房再建を行う時期として、乳がん切除術と同時に乳房再建を行う「1次再建」と乳がん切除後に一定期間をおいてから改めて乳房再建を行う「2次再建」があります。
乳房再建に用いる材料には「人工物(シリコンインプラント)」と「自家組織(自分の身体の一部)」があります。乳房再建を行う時期や用いる材料の違いによりそれぞれ長所、短所があります。
乳房再建を希望する、迷っている、話を聞いてみたい患者様は一度形成外科の乳房再建外来を受診してください。
原因・症状
乳がんの外科的治療において切除する組織を、①乳腺、②乳輪乳頭、③乳房皮膚の3つに分類し、その組み合わせに応じて最適な再建方法を検討します。
①乳腺においては、部分切除(乳房温存術)と全摘出があります。乳腺部分切除の場合、切除する範囲や部位、元の乳房の形態によって術後に変形が目立つ場合と目立たない場合があります。部分切除でも切除範囲が大きかったり、乳房の尾側の方であったり、元の乳房が小さい場合は変形が目立つことが多いです。乳腺全摘出の場合は、術後に胸が平坦になります。
②乳輪乳頭や③乳房皮膚に腫瘍が及んでいる場合は、その部位も同時に切除する必要があります。
①②③の切除の組み合わせによって生じる変形や欠損は様々です。乳房は見た目の整容性のみでなく、下着や服を着た時の着心地、左右のバランスなど日常生活にいろいろと影響を及ぼすため、希望に応じて乳房再建方法を検討します。
検査
後述の腹部組織を用いて乳房再建を希望される場合は、術前に造影剤を使用したCT検査を行い、手術で使用する胸部や腹部の血管を詳細に調べることがあります。また、人工物による乳房再建をされた場合は、術後に定期的なエコーやMRI検査を施行し、人工物の破損や後述するBIA-ALCL(ブレストインプラント関連未分化大細胞型リンパ腫)の精査を行う必要があります。
治療
乳房再建の方法として、①人工物(シリコンインプラント)によるものと自家組織(②背部の組織、③腹部の組織)によるものがあります。
人工物による乳房再建の場合は、通常は手術を2回に分けて行います。初回の手術では、エキスパンダーという組織拡張器を大胸筋の下に挿入します。退院後、通院しながらエキスパンダーに少しずつ生理食塩水を注入し乳房組織を徐々に拡張していきます。初回手術から半年~1年ほど経過した後にエキスパンダーを除去し、人工物と入れ替える手術(図1)を行います。
自家組織の場合は、背部の広背筋および皮膚と脂肪を用いる方法(図2)と腹部の皮膚と脂肪(腹直筋を一部含む場合もある)(図3)を用いる方法があります。
人工物の場合は人工物周囲に形成される被膜内にBIA-ALCL(ブレストインプラント関連未分化大細胞型リンパ腫)が稀に発生することがあります。人工物が身体の他の部位を損傷しないことに比べ、自家組織の場合は乳房以外の部位を犠牲にしたり傷跡を残すことになります。
手術で乳輪乳頭を切除した場合は、再建乳房の皮膚や反対側の乳頭を用いた乳頭再建、刺青(自費)や他部位から皮膚を移植することで乳輪再建をすることができます。
メッセージ
乳房再建の有無および最適な再建方法については患者様の状況(乳房の形態や体型、日常活動レベルなど)によって異なります。再建方法によって術後の身体への負担、入院期間、再建できる乳房形態の限界、合併症、後遺症などは大きく異なります。
乳房再建を希望する、迷っている、話を聞いてみたい患者様は一度形成外科の乳房再建外来を受診してください。より詳細な内容についてご説明いたします。
形成外科は、機能回復とQOLの向上を目的とする専門外科です。
形成外科は、主に体の表面のケガや変形、できもの、アザなどを治す診療科です。"傷を丁寧に縫合してきれいに治す""顔や手の骨折を元に戻す""皮膚の表面の腫瘍を取る""アザやシミを消す"などの役割があります。
顔(瞼(まぶた)、鼻、唇、耳)、手足、胸、腹、背中…どの部分も治療の対象です、もちろん、生まれつきの変形も含まれます。
形成外科の治療は手術が主体ですが、レーザー照射や注射、塗り薬や貼り薬、飲み薬も使います。
頭のてっぺんから足の先まで、お困りのことはご相談ください。
垣淵 正男(かきぶち まさお)診療部長