疾患概要
「味覚」とは、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味のことです。イチゴ味やバナナ味、コーヒー・紅茶の味は「味覚」ではなく、「風味」いわゆる「嗅覚」が関与します。両者をはっきりと区別することは難しいですが、各検査で機能を評価することでどちらが障害されているかをみます。
当科では原因不明の舌の痛みで来院される方も多いです。味覚に異常が生じると食への満足が得られなくなる、食事量が減少し体力・抵抗力が低下する、ストレスを抱えるなど様々な問題が出てきます。また、食事が偏ったり、味付けが濃くなってしまうため、塩分や糖分の取りすぎも懸念されます。食品の劣化や腐敗にも気付きにくくなります。
味覚障害は、舌や口腔内の異常で起こることもありますが、全身の状態が関係する症候です。加齢によっても味覚は低下するものですが、治療によって治る場合もありますので異常を感じたら受診してください。
原因・症状
味覚障害の症状としては、味覚低下・消失だけではなく、異味症(いつもと味が違う)、自発性異常味覚(実際は何も口内にないのに味覚を感じる)、味覚過敏(味覚を強く感じる)、悪味症(食べ物に嫌悪感を感じる)などがあります。もっとも多いのは、舌にある味を感じる細胞をもつ味蕾(みらい)の障害です。
原因としては、主に亜鉛不足が関係します。鉄やビタミンが不足することで生じることもあります。細胞の障害は、舌炎、感冒ウイルスや全身疾患、薬剤が原因になることがあります。
また、味覚の末梢神経が障害される原因としては、神経疾患、手術や歯科処置などの医原性などがあります。中神経障害の原因としては、脳腫瘍、脳血管障害、頭部外傷のほかに、認知症や加齢、精神疾患などがあります。近年、ストレスなどが原因の心因性味覚障害の方が多く受診するようになりました。
検査
当科では味覚機能検査として電気味覚検査、ろ紙ディスク法を施行しています。
電気味覚検査では、微量の電気を流してどの強さで「スプーンをなめたような(鉄のような)味」がするかを答えていただきます。ペースメーカーを装着している方は実施できません。
ろ紙ディスク法では、基本4味の味溶液を垂らした小さい紙を舌の上にのせて、何の味がするかを答えていただきます。
両者とも各神経領域で施行するので、どの神経がどれだけ機能しているかを調べることもできます。口腔内の状態を評価することも重要で、視診だけでなく唾液量測定を行い、味を伝達する唾液量が十分にあるかをチェックします。血液検査で亜鉛、鉄、銅などの微量元素やビタミンを評価します。
そのほか、嗅覚検査や必要時に頭部MRI、胃や腸の内視鏡検査などを施行します。
治療
亜鉛が不足すると細胞分裂のターンオーバーが遅延することや、酵素の活性が低下し、味覚神経応答が低下することが報告されています。したがって、細胞の障害が疑われた場合は、原則、亜鉛内服療法を行います。鉄不足には鉄剤を、ビタミン不足にはビタミンを補充することで速やかに治ることも多いです。
原因となる薬剤の中止や全身疾患のコントロールをすることが必要ですが、中止できない薬剤であったり、コントロールが困難な全身疾患も多いです。原因が特定されない味覚障害には、漢方を用いて治療を行います。
また、心因性や精神疾患性に対しては安定剤や抗うつ薬、漢方などを用いて治療、また精神科や心療内科をご紹介します。
新型コロナウイルス感染症における味覚障害
現在、新型コロナウイルスにおける味覚障害が注目されています。
その大部分は、嗅覚障害による風味障害と考えられていますが、味覚障害もおきます。新型コロナウイルスは、ウィルス表面に発現するスパイク状のタンパクがACE2 (アンギオテンシン変換酵素Ⅱ)と結合し、TMPRSS2やFURINなどのプロテアーゼ(タンパク分解酵素)などにより細胞内に侵入しやすくなるといわれています。実際、ACE2、TMPRSS2、 FURINは口腔粘膜、味細胞にも存在すると報告されています。約80%は数日から一か月くらいで治るといわれていますが、遷延する場合は治療が必要になります。
まずは、嗅覚障害なのか味覚障害なのかを調べるために両方の検査が必要になります。
分野ごとに専門的な診療を行っています
聴覚・平衡覚・嗅覚・味覚などの感覚医学、頭頸部腫瘍の診療を行っています。鼓室形成術、人工内耳埋め込み手術、めまいの検査と治療、顔面神経麻痺、内視鏡下副鼻腔手術、手術用ナビゲ-ションシステムの応用、嗅覚・味覚専門外来、幼児難聴、補聴器外来、頭頸部がんに対する集学的治療を行っています。
都築 建三(つづき けんぞう)診療部長