疾患概要
心臓には大動脈弁、肺動脈弁、僧帽弁、三尖弁の4つの弁があり、それらの弁に異常があると血液を送り出す機能が低下します。そのような病気のことを「心臓弁膜症」と言います。この病気になると、全身に必要な血液が送り出せなくなる状態、いわゆる心不全という病気になり、様々な症状が出現します。私たち心臓血管外科では、心臓弁膜症に対する手術を行うことで、患者さんの症状を改善させ、より良い生活を送れるようにすることをめざしています(下図)。
(提供:エドワーズライフサイエンス株式会社)
原因・症状
心臓弁膜症が進行すると、「階段を上ったり坂道を歩いたりすると息切れがする」「動悸(胸がドキドキ)する」「胸が差し込むように痛む」「足が浮腫(むく)む」といった症状が出やすくなります。それらの原因は、弁の機能である“開いて閉じる”という動作に異常があるためです。開くことに不具合がある場合は狭窄症と呼び、閉じることに不具合があることを閉鎖不全症と呼びます(下図)。
(提供:エドワーズライフサイエンス株式会社)
検査
胸部X線、心電図、心臓超音波検査(心エコー)などを行い、心臓弁膜症の評価を行います。手術の必要性がある場合には、CT検査、心臓カテーテル検査などを追加で行い、安全に手術ができるように計画を立てます。
治療
心臓弁膜症の治療には「形成術」と「置換術」があります。自分の弁を治して残すのが形成術で、人工弁に取り替えるのが置換術です。通常の弁膜症手術は胸の真ん中にある胸骨を切開するのですが、当科では、胸骨を切らずに肋骨の間を5~7cmほど小さく切開して手術する心臓手術(Minimally Invasive Cardiac Surgery、略してMICS<ミックス>)を積極的に行っています(図 MICSの切開創)。
当科の担当医はこれまで500例以上のMICSの執刀経験があり、全国からの手術見学(50施設以上)や現地手術指導(20施設以上)を行っています。特に、僧帽弁形成術では80%以上の患者さんにMICSを行っています。
からだにやさしい心臓血管手術をめざします
心臓血管の手術といえば、「こわい」「術後が大変」といったイメージを持っている方が多いと思いますが、近年手術の低侵襲化がどんどん進んでいます。カテーテルを使った血管内治療は、動脈瘤だけでなく弁膜症治療にも行われるようになり、胸骨を切らずに小さな傷で行う低侵襲心臓手術 (MICS:ミックス)も普及しつつあります。当科では、豊富な低侵襲手術の経験を生かして、美容面や術後の生活の質の向上をめざした、からだに優しい手術を志しています。
坂口 太一(さかぐち たいち)診療部長