疾患概要
脳は記憶、感情、思考、感覚など様々な領域をコントロールしています。認知症とは、脳の細胞が脱落することでコントロールがきかなくなり、いったん正常に発達した能力が持続的に低下し、複数の領域の機能障害のため日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態をいいます。誰もがなりたくないと思ってはいても、すべての人に起こりうる、決して人ごとではない病気です。
そこで2019年6月に政府は「共生と予防」をキーワードとした「認知症施策推進大綱」を発表しました。認知症の人が家族と希望をもって認知症とともに生きる、また、認知症があってもなくても同じ社会でともに生きる、という意味が含まれています。生活上の困難が生じた場合でも、重症化を予防しつつ、周囲や地域の理解と協力の下、本人が希望をもって前を向き、住み慣れた地域の中で自分らしく暮らし続けることができる社会を目指すことを大きな目的とし、このキーワードに準じて我々も日々の診療に携わっています。
原因・症状
認知症や認知症様症状をきたす原因疾患や病態は非常に多くあります。アルツハイマー型認知症、前頭側頭型認知症、Lewy小体型認知症といった中枢神経変性疾患、血管性認知症、脳腫瘍、正常圧水頭症、頭部外傷、神経感染症、内分泌・代謝疾患など多数ありますが、中には治療可能な認知症(treatable dementia)も含まれているため、原因検索は大切です。
また、認知症の症状は中核症状と行動・心理症状(BPSD)の2つにわかれます。中核症状には記憶障害、見当識障害、失認、実行機能障害、失行、失語、BPSDには妄想、幻覚、興奮、うつ、不安、多幸、無関心、脱抑制行動、易刺激性、異常行動があります。中核症状は脳の細胞が脱落することで生じますが、BPSDはもともとの性格や本人を取り巻く環境や人との関わり方に対する反応として現れるため、個々に応じた適切なケアが必要になってきます。このような中核症状やBPSDに対する治療やアドバイスを当科では行っています。
検査
認知症は早期発見、早期受診が重要です。早期に診断することで早い段階から介護システムやサービス受給の準備が行え、患者さんご本人が十分整った環境で生活することができます。
認知症の診断は、まずは患者さんご本人、ご家族より日常生活のエピソードを聴取し、簡易検査(HDS-R、MMSEなど)を行った上で必要な検査を追加していきます。検査としては血液検査、脳波検査、頭部MRI、脳血流SPECT、ドパミントランスポーターシンチグラフィ、MIBG心筋シンチグラフィ、各種神経心理検査、失語症検査があり、全ての検査においてスペシャリストが対応します。
当科の医師が担当している認知症疾患医療センターでは特に精神疾患と認知症の鑑別や失語から始まる稀な認知症など、鑑別が難しい症例を多数経験しております。
治療
認知症の治療には薬物療法と非薬物療法があります。薬物療法にはコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)、NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)があり症状や重症度に応じて薬剤を選択します。
非薬物療法は、認知、刺激、感情、行動の4つに焦点を当て実施しており、薬物療法の治療効果を高める役割をしています。認知症予防には生活習慣病予防、生きがい活動が重要で普段から食生活や適度な運動、家族や友人、地域とのつながりを絶やさないよう心がけることが大切です。
そのほかに、社会的支援として介護保険、成年後見制度などを利用し、少しでも日常生活を充実したものにすることで進行を遅らせることができます。
その他
当科には、「認知症サポーター養成講座」の講師資格(認知症キャラバン・メイト)を有した医師が所属しており、住民、企業、学校など一般住民向けに認知症啓発活動を行っています。
これからも地域と連携し、包括的な認知症治療、ケアの一端を担えるよう努めて参ります。
ストレス過多の現代社会を生きるために
精神科神経科では、現代社会において誰もが罹患する危険性があるうつ病や不安症をはじめとして、統合失調症、躁うつ病、認知症関連疾患、摂食障害など精神疾患全般にわたり幅広い診療を行っています。また、これらの疾患に関する臨床研究や基礎研究を積極的に行い、最善の治療を提供できるよう研鑽を続けています。
松永 寿人(まつなが ひさと)診療部長