疾患概要
鼠径(そけい)ヘルニアは、小児の手術対象の中で約3%程度を占める、最も多い疾患です。赤ちゃんが泣いた時や、入浴時に「鼠径部(股の付け根)」「陰のう(陰部のふくろ)」が腫れることで気がつくことが多いです。
鼠径ヘルニアを放置すると、陰のうの中に入り込んだ臓器が締め付けられて、おなかの中に戻らなくなる危険性があります。これを嵌頓(かんとん)ヘルニアと言います。嵌頓ヘルニアの状態が長時間続いた場合、腸が痛んだり、男の子では大切な精巣(睾丸)痛んだりする危険があります。
原因・症状
お母さんの胎内にいる時期には、赤ちゃんの鼠径部に腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)という袋があります。
この袋は鼠径部の腹壁のすき間にあり、生まれるまでに閉じることが多いですが、閉じずに残って生まれてくる赤ちゃんもいます。この状態で生まれ、すき間におなかの中の臓器が入り込み、外から見ると「鼠径部にふくらみが突出する」のが鼠径ヘルニアです。
ふくらみの大きさは、袋の広さや長さ、入り込む臓器の種類や量によって違います。患者さんによっては陰のうまでふくらむこともあります。
検査
基本的に、ヘルニアの症状があれば視・触診で診断は可能ですが、超音波検査の方が詳しいヘルニアの症状が確認でき、より確実な診療が可能となります。
また、嵌頓ヘルニアの症状の場合は、偶発的に「レントゲン撮影」や「CT撮影」で診断されることがあります。
治療
鼠径ヘルニアの診断がついたお子さんには、原則「手術による治療」が推奨されており、当院でも「腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(LPEC法)」を行っています。この手術は、全身麻酔に加え、へその両横の痛み止めの注射を併用して行います。へその中を切って、「腹腔鏡」と呼ばれるカメラとマジックハンドのような細い道具(はさみに似た形の金属性の医療器具)をそれぞれ右下腹部に入れ、腹膜鞘状突起の根元に近い股のつけ根の部分から糸をつけた特殊な針を刺して糸を通し、それを縛ってヘルニアの出口をふさいでいきます。
当院では、午前中に手術を受けていただければ、特に症状に問題がないお子さんの場合は当日の夕方には退院できます。
外科疾患から重症の先天性疾患まで、幅広くお子さんを診療いたします
小児外科は、生まれたての赤ちゃんから15歳までの子どもさんの外科疾患を担当しており、鼠径ヘルニアや虫垂炎などの日常的な外科疾患から、重症の先天性疾患を持つ新生児や小児がんの患者など、高度の専門的治療が必要な疾患まで、幅広く扱っています。
まだまだ小さな診療部門ですが、地域の皆さまに信頼され、次世代を担う若い方々にとっても魅力ある診療科となることを目標にしています。
大植 孝治(おおうえ たかはる)診療部長