疾患概要
狭心症は、心臓の筋肉(心筋)へ酸素と栄養素を送る「冠動脈」が動脈硬化などにより細くなることで、心筋への血流が阻害されて酸素不足を起こし、胸の痛みなどが生じる病気です。心筋梗塞とは違って冠動脈が完全に閉塞していないため、壊死を起こしているのではなく、酸素が不足している状態です。
原因・症状
最も多い症状は「締めつけられるような前胸部の痛み」や「圧迫感」です。坂道や階段を上ったり、重い荷物を持ったりなど、心臓に負担のかかる行動を取ったときに出る症状のことを「労作性狭心症」と言います。背中や上腹部、左肩や首からあごにかけて痛みが出ることもあるので、胃潰瘍(いかいよう)や胆石症(たんせきしょう)と間違われることもあります。また、糖尿病の方は痛みを感じにくいことが多く、自覚症状がないまま病気が進行することがあるため注意が必要です。
検査
心電図、核医学検査(シンチグラム)、心臓超音波検査、心臓CT検査などを行い、最終的には心臓カテーテル検査によって診断します。
治療
カテーテルを使って狭窄部位を風船で広げ、「網目状の筒(ステント)を留置する方法(※)」と、開胸手術によって血液の迂回路をつくる「冠動脈バイパス手術」という方法があります。心臓血管外科では後者の治療法で行っています。バイパスに使用する血管(グラフト)は胸骨の裏側や腕の動脈や足の静脈を使用します。
心臓をいったん止め、人工心肺という装置で循環を維持しながら手術を行う「オンポンプ手術」と、人工心肺を使わずに心臓を動かしたまま行う「オフポンプ手術」があります。どちらの方法も最終的な結果は同じですが、それぞれメリットとデメリットがあるため、どちらの方法で行うかについては患者さんの状態を総合的に判断して決定しています。
さらに当科では、胸骨を切らずに左の肋骨の間を小さく切開してオフポンプで行う「小切開バイパス手術」を行っています。こちらの手術方法は骨を切除しないため回復が早く、術後の運動制限などはありません。小切開バイパス手術は、手術後最短1週間で仕事に復帰できるだけでなく、リハビリが重要な高齢者にも利点がある大きな手術です。また、傷が目立たず、特に女性では乳房にかくれて傷はほとんど見えなくなります。複数の冠動脈にバイパスが必要な患者さんに対して小切開バイパス手術を行っている施設は、国内ではごく限られていますが、当科では患者さんにとってメリットの大きいこの手術を積極的に行っています。
図:冠動脈バイパス術
図:小切開バイパス術の傷(左乳房に隠れて見えません)
からだにやさしい心臓血管手術をめざします
心臓血管の手術といえば、「こわい」「術後が大変」といったイメージを持っている方が多いと思いますが、近年手術の低侵襲化がどんどん進んでいます。カテーテルを使った血管内治療は、動脈瘤だけでなく弁膜症治療にも行われるようになり、胸骨を切らずに小さな傷で行う低侵襲心臓手術 (MICS:ミックス)も普及しつつあります。当科では、豊富な低侵襲手術の経験を生かして、美容面や術後の生活の質の向上をめざした、からだに優しい手術を志しています。
坂口 太一(さかぐち たいち)診療部長